外科医は15分の合間にトイレの個室で眠る

次に着目すべきは「睡眠」です。人は、人生のうち4分の1か3分の1は寝ているわけです。何を食べるかというのは自己責任の部分が大きいけれども、睡眠はどうしようもない部分が大きい。幸い、我が順天堂医院にも「睡眠・呼吸障害センター」があります。いらぬ躊躇はせずに、医療機関はどんどん活用してほしい。

なぜ日本は国民皆保険制度なのか。それは、国民が極端に健康を害し、労働や納税や政治参加といった憲法で定められた国民の義務を果たせなくなる前に治療を受けてほしいからなんです。

だから毎月国民の皆さんに保険料を支払っていただいている。それは精神科や心療内科でも同じことなんです。今どき、そんなことは誰も気にしていないのに、周囲の目を気にするのはよくない。最近は睡眠障害の外来に行くと、傍目には眠っていても歯ぎしりやいきみによって、眠りの深さが十分でないことなどを数値化して、その度合いを示してくれます。

低酸素に至る無呼吸症候群に悩む人も多いです。すると、昼間の行動に影響したり、不整脈の原因になることもあります。女性の場合、生理不順や貧血を引き起こすこともある。睡眠はそれくらい重要なのですから、手遅れになる前に治療を受けてしまえばいいのです。

私も含め、外科医はほんのわずかな空き時間を見つけては寝ています。手術が立て込んでいても、合間に横になって足をあげ、目をつぶって深呼吸すれば15分はしっかり眠れます。

トイレの個室で弁当を食べる学生がいるじゃないですか。さすがに外科医で食う人はいませんが、コーヒーを1杯飲んでトイレで寝る人はよくいます。カフェインが体に入り、効能を発揮して血流がよくなり始めるのが約30分後。つまり仮眠から目覚めた頃にちょうど効き始めるのです。

感情を表に出すとき独りよがりにならない

私は人生で眠れなかったという経験がありません。若気の至りで当時勤務する病院で上司から解雇を告げられたときも、疲れていれば眠れました。

陛下の手術前日も平常心でした。あの日は東大病院の検討会に行き、帰りに湯島にある行きつけの寿司屋に行こうと思ったのですが、当時はノロウイルスが流行していましたから、ここは素通りして400メートルほど先のイタリアンに行きました。

その日は普段通りの時間に寝て、いつも通り朝5時に目覚め、テレビでぼんやりみのもんたさんの「朝ズバッ!」を観ていました。すると、昔の私の教え子が上皇陛下の手術の解説をしているんですよ。6時になると、今度はNHKで元同僚がまたそれらしい解説をしている。「好き放題言いやがって」と思わないこともなかったですが、冷静さを取り戻して予定通りの手術を終えることができたのです。

というのも、私は常日頃から喜怒哀楽の感情を出さないようにしています。私が感情をむき出しにするのは、仲間内でゴルフをするときだけです。バーディーを取ったら喜ぶし、ダフってしまったり、簡単なパットを外したりしたら時には叫ぶこともあります。マナー的にはよくないですが……。