人間の脳に限界はあるのだろうか。仮に限界がないとしても、日々脳を酷使する人々にとって休息は必要だ。約9000例の心臓手術に立ち向かった外科医・天野篤氏の脳をリセットする術とは。「プレジデント」(2022年7月29日号)の特集「脳疲労ゼロ革命」より、記事の一部をお届けします――。
手術そのもので脳を使うことはない
心臓手術が原因で脳梗塞がおきることがあります。上皇陛下の心臓手術を担当してもう10年以上になりますが、その事態だけは避けたかった。手術後に胸水が少し溜まることがありましたが、脳梗塞で倒れることはありませんでした。私にとっては手術そのものより後遺症のほうがずっと気がかりで、5年はその重圧が消えることはありませんでした。手術後もご無事な姿を見て、やっと任務を果たせたのだという安心感があります。
陛下から教わったのは「公平の原則」です。ご自身の前に現れたものはすべて公平に受け止めるという感覚が備わっておられるのです。
もう明かしてもいいと思うのですが、たとえば公務の外出時に陛下は一日に500ミリリットルの水しか飲まれません。心臓はもちろん、健康の観点からいえば決していいことではありません。しかし、トイレの回数が増えると侍従や警備の人たちの動きが増えてしまう。だから、極力周りの人たちの動線を複雑にしないように、ご自身の体を普段から律しておられる。なかなかできることではありません。