人間の脳に限界はあるのだろうか。仮に限界がないとしても、日々脳を酷使する人々にとって休息は必要だ。約9000例の心臓手術に立ち向かった外科医・天野篤氏の脳をリセットする術とは。「プレジデント」(2022年7月29日号)の特集「脳疲労ゼロ革命」より、記事の一部をお届けします――。

手術そのもので脳を使うことはない

心臓手術が原因で脳梗塞がおきることがあります。上皇陛下の心臓手術を担当してもう10年以上になりますが、その事態だけは避けたかった。手術後に胸水が少し溜まることがありましたが、脳梗塞で倒れることはありませんでした。私にとっては手術そのものより後遺症のほうがずっと気がかりで、5年はその重圧が消えることはありませんでした。手術後もご無事な姿を見て、やっと任務を果たせたのだという安心感があります。

2012年3月4日。執刀医の天野篤・順天堂大教授(右)らにあいさつされる天皇陛下と皇后さま(現上皇ご夫妻)。天皇陛下(当時78)は4日午後、皇后さまに付き添われて退院。皇居・御所に16日ぶりに戻られた。
撮影=藤中一平
2012年3月4日。執刀医の天野篤・順天堂大教授(右)らにあいさつされる天皇陛下と皇后さま(現上皇ご夫妻)。天皇陛下(当時78)は4日午後、皇后さまに付き添われて退院。皇居・御所に16日ぶりに戻られた。

陛下から教わったのは「公平の原則」です。ご自身の前に現れたものはすべて公平に受け止めるという感覚が備わっておられるのです。

もう明かしてもいいと思うのですが、たとえば公務の外出時に陛下は一日に500ミリリットルの水しか飲まれません。心臓はもちろん、健康の観点からいえば決していいことではありません。しかし、トイレの回数が増えると侍従や警備の人たちの動きが増えてしまう。だから、極力周りの人たちの動線を複雑にしないように、ご自身の体を普段から律しておられる。なかなかできることではありません。

「プレジデント」(2022年7月29日号)の特集「脳疲労ゼロ革命」は、1冊まるごと「最高の休息法」ガイドです。すべての疲労の原因は「脳」にあります。脳が疲労するメカニズムを解説し、自己診断できる「通院できない人のための『脳ドクター誌上コンサル』」から、米国エグゼクティブの3人に1人が受けているというホルモン治療の紹介する「話題沸騰! 女と男の『ホルモン治療』効果と費用」、本来の座禅法を解説する「『脳に静寂をもたらす』2人のスズキと座禅入門」まで、脳を休めるためのコツが満載です。