注射針の刺さるリスクと向き合いながらの作業に

人は飲食をすると、そこに含まれる糖質が分解されて血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)が上昇する。通常ブドウ糖が多くなると、膵臓すいぞうからインスリンというホルモンが分泌され、血液中のブドウ糖を筋肉や肝臓などへ取り込み、血糖値を下げる。しかし、何らかの原因でインスリンが十分に分泌されなくなると、高血糖が続いてしまう。

笹井恵里子『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中央公論新社)

男性が使用する注射はインスリンの働きを高め、血中に残っているブドウ糖を薬の力で体内に取り込むもの。だが注射をうちつつ、多量の糖分を含む清涼飲料水を飲むのだから、糖尿病が改善するはずもない。

この男性だけでなく、ゴミ屋敷に住む人は糖尿病を患っている人が多く、ゴミの中には大抵薬が埋もれている。つまりは服薬していない。最終的には合併症にかかったり、不衛生な環境で感染症を患い早逝してしまうのだ。ほかに室内のゴミ山から転落死することもあれば、夏季には熱中症で亡くなることもある。

私たち作業員も手袋をしているとはいえ、注射針が刺さったら病気になりかねない。ゴミ山を片付けながら背中を冷や汗がつたった。(【次回】「生きる意欲が感じられない」80代独居女性のゴミ屋敷にあった"灰黒色のカップ焼きそば"

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