紙類のゴミには、尿と灯油が染み込んでいた

下駄箱の横には灯油缶があった。フタをなくしてしまったのか、注入口があいたままで中にはまだ灯油が入っている。その周辺のゴミは灯油の臭いがした。バケツリレー形式でそれらのゴミを回すと、手渡した作業員が顔をしかめて言った。

「これ、灯油だけじゃないですよね」

鼻を近づけて臭いをかぎ、「尿……?」と私がつぶやくと、その作業員が黙ってうなずく。紙類のゴミには、尿と灯油が染み込んでいたのだった。ゴミ屋敷に家主の排泄物が落ちていることは珍しくない。トイレがゴミで埋もれて使えないためだ。ペットボトルに尿が入っていたり、大便が落ちていたりすることもある。

男性宅のトイレをのぞくと、ゴミが散乱して足の踏み場がない状態だった。便座には便がべっとりついたままで、異臭を放っている。

玄関のゴミをあらかた外に搬出し終えると、床にはたくさんの“小銭”が張り付いていた。下駄箱の中にも小銭が大量にある。小銭を使うのが面倒なのか、ゴミ屋敷には床に小銭が落ちていることがとても多い。

ほかのゴミ屋敷と同じように、元教員宅にも1円玉が散乱していた。
撮影=今井一詞
ほかのゴミ屋敷と同じように、元教員宅にも小銭が散乱していた。

脱衣室に落ちていた「木板」をひっくり返すと…

廊下を進むと、右手には和室、左手に浴室と脱衣室があった。浴室の浴槽もゴミで埋まっている。ふと脱衣室に落ちていた木板を手にした。ひっくり返すと、うにょうにょと動くシロアリがびっしり。小さな叫び声をあげて投げ捨ててしまう。ここで一人で作業をすることはできないと思い、廊下をさらに奥に進んだ。突き当たりにリビングと台所があって、作業員が3人で片付けを進めていたので参加させてもらうことにする。

元教員宅の風呂場。
撮影=今井一詞
元教員宅の風呂場。

台所のシンク周辺には食べかけのインスタントラーメンや、飲みかけのペットボトル、缶、瓶があふれている。それらを仕分けながら処分を進めていると、ゴミ山の中から消毒用品が出てきて思わず笑ってしまった。ギャグでしかない。

屋外には草木が多いためブヨや蚊が飛んでいる。だが、それらに刺されるよりも、屋内の不衛生さのほうが体に害を与えそうだった。