長時間労働と孤独の問題
働き方評論家で千葉商科大学准教授の常見陽平さんは、その問題を最もよく知る一人だ。実は、常見さんの妻は、テレワークにより「心と体のバランス」を崩してしまったのだという。
「妻がコロナ下でテレワークを始めてから1年で適応障害と診断されました。いくつか要因はあったと思いますが、仕事の時間と密度で疲弊してしまったのです」
妻の会社は「極めてホワイト」な企業だった。コロナ前は、午前10時に出社して午後6時には退社できた。出勤が適度な運動になり、家から解放されることもいい気分転換になっていたようだ。
だが、テレワークが始まると、始業が午前9時に早まり、夜は8~9時を過ぎるまで仕事する毎日に変わった。営業担当や取引先とのやりとりも、以前は1日くらいかかっていたのが、リモートですぐに返事が来るようになった。効率は上がったが、次から次へと仕事をこなさなければならず、心身に不調が出始めた。適応障害と診断された後は、業務量を調整してもらい、運動をするなど健康管理に気を使い今は回復している。常見さんは言う。
「テレワークゆえに、仕事が逼迫して病む人が出てしまったことも忘れてはいけません。こうした長時間労働を防ぐためにフランスでは、2000年代はじめから『つながらない権利』が議論され、2016年に改正労働法に盛り込まれました。その結果、企業ごとに労使で合意した上で、例えば、原則週末など勤務時間外にメールの返事や電話はしてはいけないなどのルールを設けるようになったのです」(常見さん)
テレワーク先進国アメリカは出社回帰へ
前出の小林さんは、テレワークでは仕事の細かい調整が行き届かないことが長時間労働につながってしまう、と指摘する。
「日本の職場は、上長が部下の様子や仕事の進捗を見ながら仕事を振り分けるのが一般的です。そこにテレワークを導入すると、突発的な業務によるサービス残業が増えたり、優秀な人に仕事量が偏ったりしたりと、柔軟な仕事の割り振りができなくなってしまう。日本企業でテレワークを定着させるには、仕事の割り振りにかなりの工夫が求められます」(小林さん)