大手企業の“中国離れ”が始まっている

中国共産党政権によるゼロコロナ政策の長期化や台湾有事など世界情勢の急激な変化を懸念して、世界の有力資本が中国から流出している。資本が向かう主な先の一つがインドだ。米アップルなど世界の大手企業がインドへの直接投資を増やした。

中国の習近平国家主席(=2022年4月8日、中国・北京)
写真=EPA/時事通信フォト
中国の習近平国家主席(=2022年4月8日、中国・北京)

ウクライナ危機の長期化懸念が高まっていることも、中国から逃避する資金が増える一因だ。また、中国海軍の空母“遼寧”は台湾付近の海域で実戦訓練を実施した。バイデン大統領が台湾防衛を明言したのは、ウクライナ危機のような事態を繰り返さないという意思表明だ。

世界情勢のさらなる変化によって、中国からインドに流入する資本は増え、世界の工場としての役割は中国からインドに加速度的にシフトするだろう。バイデン大統領が立ち上げを表明した“インド太平洋経済枠組み(IPEF)”はそうした動きを促進するファクターになりうる。

日米豪印4カ国の枠組みである“クアッド”の首脳会議にて今後5年間でインド太平洋地域のインフラ構築に500億ドル(約6兆3000億円)以上が投資されることも大きい。わが国は世界情勢の急速な変化に対応すべく、インフラ整備を強力に支援するなどし、インドとの信頼関係の強化を急がなければならない。

アップルの工場移管がインド進出の呼び水に

ここにきて、中国からの資本流出が加速している。その向かう先の一つがインドだ。そのきっかけとなったのが、2018年3月以降に先鋭化した米中の対立だった。中国で行ってきたデジタル機器などの生産を中国以外の国に移す企業が増えた。その代表格が米国のアップルだ。2019年にアップルはトランプ政権(当時)の対中制裁関税などの影響を避けるために、当時の上位機種の生産をインドに移管したとみられる。

国際分業によって成長を加速してきたアップルのインド進出は、他の企業がインド向けの直接投資を急ぐ呼び水のような役割を発揮し、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業や緯創資通(ウィストロン)に加え、わが国の工作機械メーカーなど広範な業種でインド進出が加速した。

その後、コロナ禍の発生によって世界の企業の中国脱出とインド進出が勢いづいた。特に、共産党政権が強引にゼロコロナ政策を徹底したことは大きい。半導体をはじめIT先端企業が数多く集まる西安市や、中国のシリコンバレーと呼ばれる深圳市がロックダウンされた。ゼロコロナ政策によって港湾施設の稼働率も低下し、世界の物流が停滞して供給制約は深刻化した。