安倍政権が目指した平和条約交渉は白紙に
ロシアは当初、安倍晋三元首相時代と打って変わった反露外交に面食らったようで、ザハロワ外務省情報局長は3月、「日本の現政権は、前任者らが長年作り上げてきた協力を一貫して破壊している」と批判した。しかし、徐々に体制を立て直し、対日報復を強化している。
ロシア外務省は3月、日本を「非友好国」に認定し、「現状において、日本と平和条約交渉を継続するつもりはない」と通告。北方領土でのビザなし交流や元島民の自由訪問も中止した。これにより、1991年のソ連崩壊後、30年にわたった平和条約交渉やビザなし渡航は破綻した。安倍氏が目玉とした4島での共同経済活動をめぐる協議も放棄した。
さらに、日本大使館員8人を報復で国外追放にし、首相や閣僚、議員、メディア関係者ら63人を無期限で入国禁止とした。外交筋によれば、ロシア政府は対日政策見直し次第で、第2、第3の入国禁止リストを公表するという。
次は北海道を「固有の領土」と言い出しかねない
ロシア要人も日本批判を強めている。プーチン大統領の盟友、パトルシェフ安全保障会議書記はロシア紙「論拠と事実」(3月29日)で、日本の対露制裁に触れ、「1945年の敗戦とそれに続く米国の占領の後、日本が完全に主権を回復していないことを想起すべきだ。日本は米国に指示され、厳しい反露政策をとっている」と非難した。
プーチン政権の発想では、世界で主権国家は米国、ロシア、中国、インドなど数えるほどしかなく、日本や西欧諸国は米国の支配下で、主権を制限されている。
ロシア野党・公正ロシアのミロノフ党首は4月、「どの国にも、願望があれば、隣国に領土要求を提出できる。ロシアは北海道の権利を有している」と北海道への領有権を示唆した。プーチン大統領は4年前、アイヌ民族をロシアの先住民族に認定すると述べており、アイヌが居住する北海道を「固有の領土」と言い出しかねない。
「予想外」と驚くほど対日攻勢を強める背景
ロシアの対日強硬姿勢について、日本外務省筋は「ウクライナ戦争と欧米への対抗で手一杯のはずなのに、予想外に反日外交を強化している」と驚きを隠していない。
背景には、日本がアジアで最も厳しい対露制裁を発動していることに加え、安倍外交の対露外交失敗の反動、中露の軍事提携拡大といった要素がありそうだ。ロシアが今後、軍事、経済両面で対日報復を強めるのは間違いない。