老化を防ぐカギは他にも存在した

悲しいことに、何年にもわたるその後の研究で、テロメアの短縮は、老化の過程のほんの一部を占めるにすぎないことがわかった。

60歳を超えると、死のリスクは8年ごとに2倍になる。ユタ大学の遺伝学者たちによる研究では、テロメアの長さは、その追加的なリスクの4パーセントを占めるにすぎないらしいことがわかった。2017年、老年学者ジュディス・キャンピージは、医学・健康ニュースサイト「スタット」でこう語った。「もし老化がテロメアだけのせいなら、老化の問題はずっと前に解決されていただろう」。

わかってきたのは、老化にはテロメア以外にもずっと多くの要素が関わっているうえに、テロメアが老化以外にもずっと多くの過程に関わっていることだった。テロメアの化学作用は、テロメラーゼという酵素に調節されている。細胞があらかじめ決められた分裂回数に達すると、テロメラーゼが細胞のスイッチを切る。

しかしがん細胞の場合、テロメラーゼは細胞に分裂をやめるように指示せず、際限なく増殖させておく。そのことから、細胞内のテロメラーゼを標的にすることでがんと闘える可能性が提起された。つまり、老化を理解するためだけでなく、がんを理解するためにもテロメアが重要なのは明らかなのだが、残念ながらどちらについても、じゅうぶんに理解するまでの道のりはまだまだ遠い。

②抗酸化サプリメントは老化防止に効果がない

あまり重要とはいえないが、老化の考察でよく耳にするあとふたつの言葉は、「遊離基(フリーラジカル)」と「抗酸化物質」だ。フリーラジカルは、代謝の過程で体に蓄積される細胞の老廃物のかすで、酸素を吸うときの副産物として発生する。

ある毒物学者いわく、「老化とは、呼吸の生化学上の代償なのだ」。

抗酸化物質はフリーラジカルを中和する分子なので、サプリメントとしてたくさん摂取すれば老化作用に対抗できるのではないかという考えがある。残念ながら、それを支持する科学的なエビデンスはない。

もしカリフォルニア州の研究化学者デナム・ハーマンが1945年に、妻の購読する『レディース・ホーム・ジャーナル』で老化についての記事を読み、「フリーラジカルと抗酸化物質がヒトの老化のかなめである」という理論を展開することがなかったら、ほとんどの人は、フリーラジカルも抗酸化物質も耳にすることはなかったはずだ。

ハーマンの考えは直感以上のものではなく、その後の研究で間違っていることが証明されたが、とにかくその考えは根を下ろし、消えそうにない。今や抗酸化サプリメントの売上だけでも、年間20億ドルを優に超えている。

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「とんでもない悪徳商法だ」と、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのデイヴィッド・ジェムズは、2015年に『ネイチャー』誌で語った。「酸化と老化という概念がいつまでも消えない理由は、それで儲けている人々によって永遠に維持されているからだ」。

「いくつかの研究では、抗酸化サプリメントは有害かもしれないとも言われている」とニューヨーク・タイムズは指摘した。この分野の一流学術雑誌『抗酸化物質と酸化還元シグナリング』は、2013年にこう述べた。「抗酸化サプリメントを摂取しても、加齢に伴う多くの疾患の発生率は下がらず、場合によっては死のリスクが高まった」。