財産は欲しいが「叔父夫婦の世話なんて誰がするか」
このままではラチがあかない。筆者は本題に入った。
「義母は財産を独り占めしようなんて考えていません。そもそも、皆さんは叔父さんの財産がいくらあると思っているのですか?」
できるだけ落ち着いた口調に戻し問い掛けると、今度は興味を示してくれた。
「そりゃ、ウン千万はあるじゃろが」
老婦人ふたりの迫力に押され、ずっと黙っていた信夫もその話になると、こちらをチラチラ盗み見ていた。仕方ない、見せるか。筆者は叔父の許可を得た上で約500万円の残高がある通帳を3人に見せた。
「なんじゃ、それっぽっち?」
文子は臆面もなく口にした。
「でもなー、財産をひとりにやるっちゅうのはー……」
久子は同じ話を蒸し返すのみ。思っていた額より少なく、トーンダウンしたようだ。ここぞとばかりに筆者は次の提案をした。
「ここでハッキリさせましょう。義母は財産などもらうつもりはありません。だから皆さんが相続すればいい。ただし、これまで義母がやってきたあらゆる手続きや世話は皆さんがしてください。了解していただけるのなら、今、ここで誓約書にサインしますよ」
事前に準備してきた誓約書を見せ、3人に突き付けた。
「そんなもん、誰がするか。それより誠意を見せろ」
と、久子。文子は
「そんな面倒なこと、ようせんわ」
と戦意喪失の模様。最後に信夫の意見を求めると、
「墓守の金くらいは……」
と声を絞り出した。
「財産の独り占めはするなよ」
結局、誰も叔父たちの面倒を積極的に見ようとか、今後のために何かをしてあげようという話は一切口にしなかった。
「財産の独り占めはするなよ」
捨て台詞を残し帰っていくと、それまで黙っていた叔父は義母に
「あんただけが頼りだ」
とか細い声で言うだけだった。(後編に続く)