おなじ4月に報じられた別の洗濯機スキャンダルは、ロシア軍の残虐さを物語るものだった。英タイムズ紙は、一時避難から帰宅したウクライナ市民をねらい、洗濯機や車など家の各所にブービートラップが仕掛けられていると報じた。帰宅後、不用意に家電を使ったり家具の引き出しを開けたりすると、手榴弾とワイヤーなどで作られた即席のトラップが発動するしくみだ。ウクライナの国営報道機関『ウクインフォルム』も当時、国民に警戒を促している。
5月になると、こんどは洗濯機ではなく、食洗機がロシア軍の窮状を表すようになった。英タイムズ紙は、ウクライナ側が鹵獲したロシア戦車を検証したところ、本来は食洗機や冷蔵庫向けであるはずの民生用スペアパーツが使用されていた報じている。この異常な状況は、ロシアが半導体の確保に苦慮していることを示している。国内でチップをほとんど生産していないことから、西側による制裁の影響をまともに受ける形となった。
生活に身近な洗濯機や食洗機にまつわる醜聞が戦地から繰り返し報じられており、世界最強の軍のひとつであったはずのロシア軍の程度の低さを外部に漏れ伝えている。洗い物が溜まり民家の洗濯機を借りたというようなニュースは、戦争報道であまり耳にすることがない。
基本装備すら寄付依存…「プーチンの戦争」の異常さ
ロシア軍の物資不足は深刻さを増しており、ついには洗濯まで一般家庭に頼るようになった。ウクライナ側も偵察用の小型ドローンなどで有志市民から提供を受けており、物資の募集自体が特異というわけではない。しかしながらロシア軍の場合、ヘルメットなど非常に基本的な装備を中心に高い需要があるという点で異質さが際立つ。
英テレグラフ紙は、一部ロシア部隊において湿ったトイレット・ペーパーが配布され、無線機の代わりにソビエト時代の大仰な野戦電話が使われていると報じている。ボランティアでクラウドファンディングに携わっているというロシア人の女性は同紙に対し、現地からの要望で最も多い品目は赤外線暗視スコープと並び、シャベルだと語った。基本装備の圧倒的な不足を物語る。
物資提供や洗濯の申し出により懸命にロシア軍を支える市民だが、血に染まる戦闘服の洗濯は心地よいものではないだろう。プーチンの戦争は、兵士と一般市民の生活に暗い影を落としているといえよう。