クラウドファンディングに協力したロシア国民たちの心情は複雑だ。兵士たちへは激励のコメントを残したが、ロシア軍の上官たちに対しては、これほどまでに酷い準備不足とは何事かと、辛辣しんらつな意見を多く残している。

「装備が兵士らの元に届いただけでも感動的」と米メディア

ソフリプ誌は、本来ならばロシア軍ほどの軍隊において、電動ドライバーなどの基本的な工具が足りない事態は起き得ないと説く。同誌はこの異常事態について、ロシア軍のモラル崩壊が影響しているのではないかとみる。「端的にいうなら、これら(寄贈された品々)は、このレベルにある軍隊が求めるはずのものではない。この出来事は、ロシア軍と政府を悩ませる腐敗の酷さを物語っている。ロシア兵たちはおそらく軍から工具を盗み出し、売り払っている」との推論だ。

さらに同誌は、「ロシア社会によくみられる収賄、贈賄、汚職のレベルを鑑みれば、装備が兵士らの元に届いただけでも感動的である」とも述べ、輸送ルート上に待ち構えるほかの部隊に強奪されなかっただけでも奇跡的だとの見方を示している。兵站網の弱さが指摘されるロシア軍だが、ルート上で物資が続々と持ち去られていることで、状況がさらに悪化している可能性がありそうだ。

なお、仮に物資や兵器が仮に前線の部隊に届いたとしても、活用できるかはまた別の問題だ。英ガーディアン紙は6月7日、ロシア兵らが酷い訓練不足の状態にあると報じている。同紙はドネツク地方第107連隊所属の兵士の証言として、「(この部隊の)90%以上は戦闘経験がなく、(自動小銃の)カラシニコフを初めてみました。戦地に放り出されたのです」とのコメントを取り上げた。装備とそれを扱うことができる兵士の両方が不足している状態だ。

武器の構えを歩くシルエット
写真=iStock.com/Georgiy Datsenko
※写真はイメージです

洗濯機スキャンダルが続くロシア軍の実情

奇妙なことに、ロシア軍と洗濯機にまつわるスキャンダルは、ウクライナ侵攻からの4カ月足らずのあいだで多数報じられてきた。最初の報は、ロシア兵たちの欲望を象徴するものであった。ウクライナの市民が避難している隙をついて民家に侵入し、洗濯機などロシアでは手の届きにくい高価な家電製品を略奪して祖国へ発送しはじめたのだ。

米議会が出資する欧州報道機関『ラジオフリーヨーロッパ』は、ロシア兵によるこうした略奪行為が、ポーランドのロシア大使館前で起きた反戦デモでも取り上げられたと報じている。デモ参加者たちが掲げるイラスト入りのボードには、戦地に送り出される恋人の兵士の目を見つめるロシア女性が描かれていた。イラスト内の女性が口にしている言葉は、「無事帰ってきて」ではなく「洗濯機をもって帰ってきて」となっている。