市場に擦り寄る「資産所得倍増プラン」

今回の骨太の方針で「分配」を封印したのは、そうした「市場の反発」に配慮したためだろう。しかも、反発される政策を盛り込まなかっただけでなく、「市場に擦り寄る」政策を盛り込んだ。「『貯蓄から投資』のための『資産所得倍増プラン』」である。

「政策を総動員し、貯蓄から投資へのシフトを大胆・抜本的に進める」とし、「本年末に総合的な『資産所得倍増プラン』を策定する」としている。

もちろん、岸田首相の「分配重視へ」という当初の政策転換姿勢に喝采を送っていた人たちも少なからずいた。野党幹部からも「分配政策は我々の十八番。それを岸田自民党に奪われる」と危機感を露わにする声も聞かれた。それが、5月5日にロンドンで市場関係者を前に「Invest in Kishida(岸田に投資を)」と呼びかけ、露骨に市場に擦り寄ったことで、こうした支持層からも疑念の目が向けられている。「岸田首相の周りは新自由主義者だらけだ」と批判する声も上がる。

かといって、「市場」が岸田支持に回ったか、というとどうもそうではない。ロンドン演説への海外投資家の反応も冷ややかだった。「選挙前だから言っているだけで、岸田首相の本心ではないのではないか」といった見方が市場関係者の間には根強くある。

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人材投資を促進する政策を「分配」と称している

今回の骨太の方針で「分配」を「成長」に切り替えるにあたって使われた「レトリック」は、人への投資は「分配」だというものだ。

岸田首相の「看板」である「新しい資本主義」について書いた「第2章 新しい資本主義に向けた改革」の冒頭で、「人への投資と分配」を掲げている。個人に直接分配する政策というよりも、人材投資を促進する政策を「分配」と称している。賃上げや最低賃金の引き上げと言った直接の「分配」にも触れているが、これは安倍内閣、菅内閣を通じて行ってきた政策だ。

DX(デジタルトランスフォーメーション)分野やスタートアップ企業の人材など、骨太の方針の各所に「人材確保」「人材育成」という語句があふれている。もちろん、人材を育成することが、競争力を高め、経済の付加価値を高め、分配の原資を膨らませていく。だが、これが「新しい資本主義」だと言われても困惑する。新しい資本主義は市場原理に従った競争を批判する立場だったはずだが、いつの間にかアベノミクスと同じ土俵に上がっている。