アベノミクス以上にアベノミクスな内容になった
今後1年の政府の経済財政運営の方針である「経済財政運営と改革の基本方針2022」、いわゆる「骨太の方針」が閣議決定された。就任前から岸田文雄首相が強力に打ち出していた「分配重視」の政策がどう具体的な政策として盛り込まれるのかが注目されたが、「分配」はすっかり影をひそめ、「成長」一辺倒といっていい内容となった。
見出しや注記も加えた報告書全体に出てくる「分配」という語句は16カ所。これに対して「成長」という語句が登場するのは68カ所にのぼる。安倍晋三首相が言い続けた「経済好循環」を「成長と分配の好循環」と言い換え、分配には成長が必要だと、当初の主張から大きく舵を切ったように見える。
アベノミクスによる成長重視戦略で格差が拡大したとして、「いわゆる新自由主義的政策は取らない」と大見えを切っていた就任当初の岸田首相の「新しさ」は姿を消した。結局は、アベノミクス以上にアベノミクスな内容になった。
金融所得課税の強化は「完全に引っ込めた」
岸田氏が当初、「格差」対策の分配策として打ち出した金融所得に対する課税強化は、今回の骨太の方針にはまったく盛り込まれなかった。税制改革については、「適正・公平な課税の実現の観点から制度及び執行体制の両面からの取組を強化する」という一文が書かれているが、これは菅義偉内閣が閣議決定した「骨太の方針2021」を引き継いだもので、ここから金融所得課税の強化をやると読むのは難しい。
「7月の参議院選挙を控えて完全に引っ込めたということです」と岸田首相の側近は解説する。何せ、金融所得課税強化を打ち出したことで、市場関係者が一斉に反発。国会で課税強化に触れるたびに「岸田ショック」と呼ばれる株価下落が市場で起きた。「分配」を優先するとした岸田首相には市場関係者や改革派の経営者が一斉に反発。日経CNBCが2月8日に報じたアンケート結果では、「個人投資家の95%が岸田政権『不支持』」という衝撃の結果が出た。
自民党支持者には、株式投資を行っている個人投資家層が少なくない。「株価が下落すると、支持者からお叱りの電話がかかってくる」という自民党議員の声も聞かれる。安倍内閣は過剰なほど株価の動向に敏感で、株価上昇につながる政策を打ち出すことに必死だった。そうした姿勢が「金持ちだけがより豊かになった」というアベノミクス批判につながった。