もう一つの文書で掲げた「労働移動の円滑化」

これを端的に示しているのが、骨太の方針と同時に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」という文書だ。

岸田首相が昨年末に設置した「新しい資本主義実現会議」がまとめたものだ。「実現会議」と言いながら計画を作るのに半年以上もかけていること自体が噴飯物。閣議決定も通常国会の会期末ギリギリだった。実現するためには法案を作って、国会審議を通す必要があり、議論は早くて秋の臨時国会から。どんなに早くても何かが実現するのは2023年4月からの施行、通常ならば2024年4月からの施行ということになる。

話を戻そう。その実行計画の冒頭に驚くべき記載がある。

「新自由主義は、成長の原動力の役割を果たしたと言える」と新自由主義を評価しているのだ。その上で、「資本主義を超える制度は資本主義でしかあり得ない。新しい資本主義は、もちろん資本主義である」と宣言している。

問題は中味だ。ここでも、「人への投資と分配」が新しい資本主義の柱として書かれているが、骨太には明確には触れられていないことがある。賃金の引き上げと並んで掲げられているのが「スキルアップを通じた労働移動の円滑化」である。「学びなおし」や「兼業推進」「再就職支援」などを行い、「教育訓練投資を強化して、企業の枠を超えた国全体としての人的資本の蓄積を推進することで、労働移動によるステップアップを積極的に支援していく」としている。

チームワークと人事管理の概念
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安倍内閣が実現できなかった政策

つまり、生産性の低い産業分野から生産性の高い分野への労働移動を促すことで、ステップアップ、つまり賃金を上げていくような社会を作るべきだとしているのだ。

実は、これはアベノミクスが当初からやりたくてできなかった政策である。労働移動を促進するためには、本来は滅ぶべき企業、いわゆる「ゾンビ企業」を救済するのではなく、それを潰して、強い企業へ集約していくことが重要だという議論が当初からあった。その際、がんじがらめになっている解雇規制を緩和することが必要だとしたことで、左派野党から猛烈な反発を食らう。「安倍内閣は解雇促進法を作ろうとしている」といった攻撃に負け、安倍内閣は労働法制の改革を断念している。

その後も「働き方改革」の流れの中で、労働移動を促進する制度整備を取ろうとしたが、なかなか本格的に手をつけられずに終わった経緯がある。