「7億円規模の集団訴訟に」慌てた琉球政府は…

しかし、このサンマ裁判がそのまま琉球政府の敗訴となってしまうと、ウシ以外の輸入業者たちも次々と「還付」を請求し、五十万ドル(現在の貨幣価値に換算すると七億円超)規模の集団訴訟になりかねない。

慌てた琉球政府は、すぐに琉球上訴裁判所に上告した。今の最高裁にあたる、琉球上訴裁判所に上告されたサンマ裁判は、モメにモメた。布令に書き記された課税対象品目は「限定」か、「例示」か。

政府側の弁護団は一審での判決を不服だと上告し、英文中の記号表記「コロン」まで持ち出して「あくまで例示」を正当化しようとする。争われるべきはその一点のはずなのだが、「例示」を勝ち取るため、政府側は第二、第三の上告理由をあげてきた。

琉球政府側の二点目の上告理由は「そもそも被告を琉球政府とするのは違法」というもの。「租税徴収法上では過誤納金の還付は税関長が担当者なので、被告は税関長にするべきだ」と、琉球政府を被告として訴えていること自体が違法という論を唱えた。

さらに三点目は「過誤納金の還付は行政処分の取消しを前提としているのに、取消しがないままに還付を命じた一審判決は違法だ」というものだった。

提供=イースト・プレス
アメリカ民政府のキャラウェイ高等弁務官

原告と被告、双方が上告する意地の張り合いに

対して、ウシとラッパのタッグも一歩も引くことはなかった。一審で勝訴したウシ側も、政府側の上告理由を先回りして封じ込める作戦にでた。

政府側の「上告」に対して「逆上告」で対抗する。弁護人の下里恵良は、「被告を琉球政府から税関長に変更する」と負けじと上告したのだ。もうこうなると法律解釈がどうのこうのよりも、はっきりいって意地の張り合い。

いったい判決はどうなったのか?

一九六四(昭和三十九)年五月十二日午前十時。琉球上訴裁判所で「サンマ裁判」上告審最終公判が開かれた。

裁判長は次のように判決を言いわたした。

「主文。本件各上告を棄却する。被告琉球政府は、第一審の判決通り、原告に対し、四万六九八七ドル六一セントを支払え」