「持家の帰属家賃を除く総合」の物価上昇率は既に前年同月比で3%となっている。

この数字だけでも物価上昇が起こっていることが分かるが、体感としての物価上昇はもっとひどいと思われる方も多いだろう。

消費者物価指数を大まかに品目分けすると、最も上昇率が大きいのは水道光熱費であり、その幅は15%弱となっている。おそらくこのレベルでの物価上昇を体感している方も多いだろう。

今回の世界的なインフレは主にエネルギー価格や資源価格の上昇が要因であるため、巷で言われているように、日銀の金融政策の転換、つまり「利上げ」では対応できない。まずは財政政策によって家計を支援すべきなのだ。財政政策とは必ずしも公共投資を指すわけではなく、消費減税も立派な財政政策である。

政策の「優先順位」が間違っている

それにも関わらず、岸田首相は5月下旬の衆院予算委員会で、消費税を触ることは考えていないと断言した。普段は何事に対しても「検討する」と歯切れの悪い受け答えが多く見られるのに、本件については即答している。

ろくに家計への支援もしないままに、「貯蓄から投資へ」だけを推進すべく、非課税制度の内容を拡充する。それが岸田政権の経済政策なのである。

こうした政策を推進すると、数年後には、自己責任論がはびこる荒んだ社会が形成されてしまうだろう。

国は投資を支援する制度を拡充した。だから、生活に困窮する国民は、投資をしなかったのであり、自己責任だ。そのため、国が税金を使ってまで救う必要はない。

そうした意見がSNS上で飛び交っている姿が容易に想像できる。

当然のことで指摘するまでもないとは思うが、株式投資にせよ、投資信託を活用した投資にせよ、必ず資産を増やせるなどという保証はない。

非課税制度とは利益が生じた場合に課される税金が免除されるというだけで、損失が生じた場合に補填してくれるわけではない。収入が増えない中で物価が上昇し、かつ非消費支出の割合も増加する社会において、わずかに残った預金を投資に向けることが、本当に正しい選択だと言えるだろうか。