議論と数字のズレに注意深くなれば、怪しい分析に騙されにくい

ここまで見てきたように、議論と数字がズレた結果生み出される「怪しい」という印象は、データや分析結果を観察し、数値の背景の因果構造を想像して自説を示し、これに相手の説が乗っ取れない分析結果を根拠として用意することで、「間違い」という判断に繋げることができます。

このことを逆に捉えれば、数字や分析結果に間違った意味を見出しているような議論が世の中に数多く流通するのは、多くの分析者や分析利用者がデータを見て考えることすら満足にしていないためと言えます。本章で行った、焦点となっている指標を観察するという作業は、データ分析の基本的な準備に当たるものです。しかし、それすら行わずにデータを使っている記事や報告書の類が多いのです。

今回出題した記事は、他の箇所にもいくつか怪しい数字が出てきますが、特に記事の主見出しにある「秋田県に若者の移住が激増」の根拠とされたデータには問題があります。その点については、本書『データ分析読解の技術』の中で解説します。

ここでは思考の過程を文章化して解説したので長く感じたと思いますが、数字に勝手な意味を与えているようなデータ分析を考察するのに通常は大した時間はかかりません。怪しいと感じたら、数字を観察し、その背後の因果関係を考え、余裕があればデータを調べてみればよいだけです。

菅原琢『データ分析読解の技術』(中公新書ラクレ)

データ分析に慣れていない方は、①議論と数字のズレに注意してデータ分析を読み、「怪しい」と感付くことができれば十分です。まずは騙されないことが大事ですから。そのうえで、②怪しい議論に対して自分の説を用意して対抗することができれば立派です。さらに③自説を支持する根拠を示し、相手説を間違いと判断することができれば、大変素晴らしいです。

データ分析に関わりたいという方は、この③までを当たり前にできるようになることが目標です。これは他者の分析をやっつけるためというより、よりマシな自説を立てるのに必要な段取りだからです。自分の中で複数の説を戦わせ、より適切な説を導き出すことが、特に人間社会を対象としたデータ分析では重要ですから。

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