まともな根拠を持った説を正しそうだと判断する
さて、図表3は左上から右下にかけてデータが分布しています。つまり横軸の値が大きいとき縦軸の値は小さくなる傾向があります。これにより、この2つの要素が負の相関関係となっていることがわかります。
今説明したように、相関関係は因果関係とイコールではありません。今回見つけた負の相関関係は、「都道府県の人口10万人当たり美容院数は店舗規模によって変動する」といった因果関係の証拠にはなりません。
ただし、相関関係は因果関係を匂わせる、仄めかすものではあります。このことを「相関関係は因果関係の十分条件ではないが必要条件である」と難しく言うこともあります。今回見つけた負の相関関係は、「都道府県の人口10万人当たり美容院数は店舗規模によって変動する」という因果関係の主張のほうがより正しそうだと判断する根拠にすることはできます。
ここで、「証拠」とはある主張を正しいと確定させる材料、「根拠」とはある主張を正しいと判断する材料の意味で用いています。「根拠」による主張はより強い別の根拠に支持された主張に倒されることがありますが、「証拠」による主張は崩せない、というのがここでの相違です。つまり、店舗の規模を「都道府県の人口10万人当たり美容院数」の要因とする説は、今後崩される可能性もあります。
しかし、元の「見栄っ張り」説はそもそもまともな根拠を提示していません。また、よほど無理やり考えないと店舗規模を「見栄っ張り」では説明できないでしょうから、図表3を「見栄っ張り」説で解釈して根拠に相乗りすることもできません。
美容院の多さを県民性の表出とするのは誤り
ある現象に複数の要因が存在してもおかしくはないので、人口10万人当たり美容院数の要因として「見栄っ張り」が生き残る余地はまだあると強弁することはできます。しかし、2つの数字が強く相関している図表3を「見栄っ張り」が乗っ取れない以上、「見栄っ張り」の県民性が仮に因果的な効果を持っていたとしても、人口10万人当たり美容院数を動かす幅はごく小さいものになるはずです。
以上から、人口10万人当たり美容院数の多少を「見栄っ張り」、「恥を感じる」県民性の表出とみなすのは「間違い」と判断することができます。ここで、この過程を文章で述べることで、今回の問題の解答例としておきましょう。
当該記事は、「見栄っ張り」で「恥を感じやすい」県民性により10万人当たりの美容院数は変動すると捉えていた。しかし、10万人当たり美容院数という数字はまず地域の社会や経済の動態によって決まるものと考えられる。具体的には、都市部のように美容院の商圏人口が多く美容院の規模が大きい場合、10万人当たり美容院数は必然的に少なくなる。したがって、10万人当たり美容院数は地域住民の性格に強く影響を受けると言うことはできない。つまり、この数値が大きいことを理由に「秋田県民は見栄っ張り」と言えるものではない。