公約の脱原発は絶対に譲れないドイツ・ショルツ政権
一部報道によると、ドイツ政府は5月16日、EUタクソノミーに原子力を含めたことに対して今後も反対していく意向を表明したようだ。
連邦経済・気候保護省と環境省が連名で声明を発表したという点からしても、ショルツ政権で両省の大臣のポストを担う環境政党、同盟90/緑の党の意向が強く働いているのは明らかである。
スペインなどドイツ以外にもEUタクソノミーに原子力が含まれることに反対する国はあるが、これを撤回させるためには加盟27カ国中20カ国の同意が必要となるため、現実的に撤回はありえない。とはいえ、同盟90/緑の党には、環境推進派としての自らの立ち位置を内外に強くアピールする意図があるものと考えられる。
ドイツ政府は脱炭素化と脱ロシアの共存を目指す観点から2030年までに総電力使用量に占める再エネの割合を80%に、2035年以降はほぼ100%にするという目標を定めた。この目標を実現するために、再エネ投資を加速させる方針を鮮明にしている。
脱原発という従来からの公約を守る観点からも、時限的に利用を容認できるエネルギーは天然ガスだけとなる。
ドイツは「ちゃぶ台返し」を厭わない
結束して脱炭素化と脱ロシア化を同時に達成しようとするEUだが、こうしたドイツの姿勢に振り回される恐れがある。ドイツのスタンスは「環境タカ派」とも評せるが、この環境という言葉を財政に置き換えてみよう。
今から10年前、EUは債務危機に直面したが、連帯責任を重視する観点から重債務国の救済を主張するフランスと、重債務国の自己責任を重視する観点から救済に慎重なドイツが対立した。まるでデジャブである。
EUは27カ国から成る超国家組織であるため、意思決定までに時間を要する。意思決定までの過程で各国の利害調整や妥協は欠かせないプロセスとなるが、原理原則を重視する傾向が強いドイツの政治家や政策当事者は、議論の結論が付いた段階で、いわば「ちゃぶ台返し」のような振る舞いをすることも厭わない傾向が強い。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い経済と金融が混乱した2020年3月、欧州中央銀行(ECB)はパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)という、過去に例のないほど大胆な量的緩和政策を実施した。その結果、欧州の経済と金融は早く安定を取り戻すことができた。PEPPが果たした役割が重要だったことに疑いの余地はない。