しかしながらドイツは、こうした汎ヨーロッパ的な安定に貢献した政策に関して冷や水を浴びせることを平気で行う。PEPPが導入された翌々月の2020年5月、ドイツ連邦憲法裁は、ECBが過去に行った量的緩和政策がドイツの経済に好影響を与えたかを当局が証明しない限り、ドイツが量的緩和政策から離脱するように命じた。
原理原則が最優先…ドイツに振り回される「EUの脱ロシア」の難しさ
この問題自体は連邦憲法裁が定めた期日以前に解決したため大事に至らなかったが、当時、仮にドイツが量的緩和政策から離脱していれば、PEPPの効果を無に帰するどころか、欧州の経済や金融が大混乱に陥っていたはずだ。原理や原則を重視するドイツは、汎ヨーロッパ的な政策の運営には向いていないと言えよう。
エネルギーの共同調達に当たっては、EU各国や協力関係にある諸国との間で、コストをどう負担するかという問題が、必ず争点になる。
それは経済規模(つまりGDP)に応じたウェイトでの費用負担の在り方かもしれないし、あるいはこれまでのエネルギー消費量に応じたウェイトでの費用負担かもしれない。
ドイツは自国の財政負担に対し、極めて厳格的な立場を取る。エネルギーの共同調達に当たっても、その費用負担の在り方に関してEUの中で話がまとまり実行に至った過程で、ドイツがまた冷や水を浴びせるような行いをする可能性は否定できない。
EUのエネルギー問題が世界経済を混乱させる要因になりかねず、日本人にとっても決してひとごとではない。いずれにしても、原理や原則を重視するドイツの出方には注目が集まるところだ。