石油会社から総合エネルギー企業へと事業構造を変革していく壮大なチャレンジが始まった。その挑戦のインフラをなすのが、人事制度改革という位置付けだ。
そこで04年から始まったのが、「社内公募制度」と「ローテーション」、それに折橋の利用した「エントリー制度」の3点セットだった。もともと社内には、本人の希望にそって長期的なキャリア形成を行う「自己申告制度」があった。だが、これは「どこの会社でもやっているようなもの」(加藤人事部長)で、変化を起こすものではない。だが3点セットのうち、新規事業の立ち上げにあわせて不定期に行われる社内公募制度、そして定期人事にあわせて行われる2つの新制度は、社風すら変えてしまう大きな効果があった。
ローテーションでは、原則として、大卒の事務系社員を入社満3年目と満6年目に異動させる。入社して最初に管理部門系に配属された社員は、2カ所目は営業系に、営業系でスタートした社員は、逆に管理部門系に異動する。3年目は「強制執行」されるというのがミソである。3年かけて教育した社員を、あっさりと引き抜かれる現場からは、不満の声も上がったが、渡社長の答えがふるっている。
「そういう小さいこと言うな。60歳の定年まで先は長い」
そしてエントリー制度。加藤はこの制度を「脱藩宣言」と表現する。管理、営業といった「藩」を自由意思で飛び出して、別部門に参画する。上司は部下の異動について拒否権をもたない。制度として年齢制限はしていないが、加藤としてはローテーションが終わるまでは、「刀を抜くな」と呼びかけている。つまり、上司に有無をいわせない伝家の宝刀なのである。
エントリー制度発足以来、6年の累計で応募が300あり、そのうち170の脱藩が成就した。