もちろん、エントリー制度や社内公募制度で希望部署に移った社員が、生き生きと仕事に取り組むのは当たり前ともいえる。その一方、新日石の売り上げの9割は石油精製・販売部門が占めている。社員の希望を聞いてしまうことで、人材を輩出する「脱藩元」の士気が下がってしまう恐れがある。人事部長の加藤は「そこが一番の肝」として、次のように言う。
「やってもらわなければいけない仕事は、どこの会社にも必ずある。その前提をひとつの雰囲気として共有できなければ、この手の制度は、素人受けする制度で終わってしまいます。『学級崩壊』が起きない大前提として、折橋のように新しい道に進む人間がいる一方、従来型の小売販売本部で今の新日石を支えていきたいと考える人間が、もっと高い比率でいる。『青年の主張と大人の対応』のバランスが取れていないとダメです」
新日石のエントリー制度に見る生き生きとした職場の条件とは何か。それは会社を変えようというトップの「意思」、社員の挑戦を促す変革の「場」、そしてそうした仕組みの活用法をわきまえた「大人」の社員がいることだろう。
10年4月1日に、新日石は新日鉱ホールディングスと経営統合した。エントリー制度は、新会社でも受け継がれることが、すでに合意されている。
(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時
(永井 浩=撮影 新日本石油=写真提供)