記者たちが追っていたのはワグナー・グループ

ジェマリらがそのとき追っていたのはワグナー・グループである。ロシア軍は2018年2月、中央アフリカ共和国の国軍の軍事顧問や大統領警備要員などとして180人を派遣していたが、それに関連してワグナー・グループも投入された疑惑が浮上していた。3人はその実態を探るために中央アフリカ共和国に入っていた。

襲撃犯は約10人の武装グループだったが、その正体は不明だ。プーチン政権の宣伝機関に等しいロシアのメディア各社は、強盗説や地元ゲリラ犯行説を盛んに流している。だが、殺害の動機が最も高いのは、当然、取材対象のワグナー・グループもしくは、その動きを察知されたくないロシア軍当局だろう。

ワグナー・グループは、こうしたいわくつきの謀略集団でもある。その活動の実態が暴かれることは、ロシア情報機関の非公然活動が暴かれるということになる。

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プーチンの汚職の暴露に繋がるアンタッチャブルな存在

汚い手法が暴かれれば、もちろんそれを命じた側であるプーチン政権の失点になる。また、オーナーであるプリゴジンの活動の実態が暴かれることは、下手をすればプーチン個人の汚職の暴露にも繋がりかねない。ワグナー・グループとプリゴジンは、ロシアではいわばアンタッチャブルな存在なのだ。

だからこそ、プーチン政権と敵対する富豪のホドルコフスキーが、その実態の調査にベテランのジャーナリストを雇い、わざわざ中央アフリカ共和国まで派遣したわけだが、それがどれだけ危険なミッションかは言うまでもない。

ロシアの場合、プーチン政権に批判的なジャーナリストや活動家の暗殺は日常茶飯事だが、この時は相手が武装集団で、しかも法の秩序がほとんどない中部アフリカの紛争国である。“消された”可能性はきわめて高い。

では、ロシア情報機関のどこが、こうした暗殺を行っているのか。

ロシアには3つの主要な情報機関がある。ロシア国内を担当する秘密警察で、治安部隊も持つ強大な連邦保安庁(FSB)、海外での諜報活動を担当する対外情報庁(SVR)、そして軍の情報機関である軍参謀本部情報総局(GRU)だ。