マーケティングと営業現場で方針がバラバラ

ブランディングがブレ続けた要因は何だったのか。一つは他社を意識しすぎたことだったろう。例えば97年に「ビヤホールの生」と打ち出したのは、当時快進撃を続けていたアサヒ「スーパードライ」の影響が大きい。「スーパードライ」がビールに辛口の概念を持ち込んだことで、消費者がビールの味に注目。味訴求の戦いで生き残るため、黒ラベルも独自の味言葉を開発しようと「ビヤホールの生」をキーワードにした。

外部環境のせいばかりにはしていられない。社内の問題も大きかった。「ブランドマネージャーは通常2~3年で交代します。中長期のビジョンがないまま代わったため、マネージャーは自分のカラーで勝負する傾向がありました。

統一感がなかったのは横の関係も同じです。例えばマーケティングで何かブランドメッセージを打ち出しても、営業の現場は『男は黙ってサッポロビール』(「サッポロラガービール」で1970年に三船敏郎を起用し、一世を風靡ふうびしたCMのコピー)のイメージでポスター案を出してくることがありました」

ブランドを伝えるコミュニケーションが混乱する中で消費者側に残っていたのは、「男は黙って」のイメージ。中高年男性以外の層が敷居の高さを感じたとしても無理はなかっただろう。

あえて「おいしい」という表現は封印した

転機になったのは、2010年から始まったCM「大人エレベーター」だ。リブランディングで打ち出したコンセプトは「大人の★生」。齋藤氏は狙いを次のように語る。

「キレがあるとかコクがあるという味の訴求では、あたりまえすぎて他社ブランドとの差別化が難しい。ゲームチェンジして黒ラベルだけの競争軸をつくりたいという思いから、世界観で勝負することにしました。CMでは、『おいしい』など味に関する表現は一切なし。黒ラベルを飲むと自分が違いの分かる大人になったと感じてもらえるような世界を表現しました」

特筆すべきは、大人の世界観を表すために当時30歳目前だった妻夫木聡を登場させたことだろう。たとえ格好のいい大人でも、1人で滔々と人生を語らせるだけでは、説教くささや押しつけがましさが出てしまう。大人に憧れる若者をホストとして加えることで、「おじさん」の世界を「大人」の世界に変えた。

提供=サッポロビール
サッポロビールによると、旧型のものからデザインをシンプルにするよう心掛けたという