JTBは旅行商品のコースの多様性でも優位に立つ。「お客さまの旅行に対する嗜好は『一人十色』。友人との旅行は価格重視、記念日にはリッチに、自分のこだわりには出費を惜しまないなど、一人のお客さまのなかに、場面によって、いろいろなニーズがある。どの場面でも弊社の商品を選んでいただけるよう、各社で商品開発をしている」(同社広報部)。
ここで「各社で」と語っているのは、2006年の分社化を強く意識してのことだ。本社機能を担う持ち株会社と現在15の事業会社に移行した背景には、旅行市場の多様化や個人化がある。パッケージ化された団体旅行や社員旅行といったグループ送客から個人による自由旅行へと旅の形態が大きく変わったことで、利用者が求めるニーズが多様化したのだ。
そうしたなかにおいて、取り扱い規模が大きいだけの総合旅行会社ではきめ細かい手配はできない。分社後、専門化し自立したグループ各社は個別のマーケットに向き合い、商品開発力を磨いてきた。その結果がアンケートの評価にも表れている。だからJTBはJALと同じ道を歩まずにすんだともいえる。
接客態度のよさも他社の追随を許さない。「人材育成に力を入れている。店舗スタッフは、業務研修のほかに、クルーズコンサルタント、トラベルコーディネーターなど社内外の資格取得を通じて、スキルアップを図っている」(同広報)。結局、ブランドイメージをつくるのは人なのだ。
もっともJTBも二期連続赤字決算という厳しい経営環境にあり、さまざまな戦略転換を迫られている。一つはHISへの対抗上進めてきた価格戦略の見直しだ。安さで勝負ではなく、富裕層向けクルーズやウエディングなどの高付加価値商品の販売強化というわけだが、今日の不況下において道のりは甘くない。
もう一つは店舗戦略の再編である。同社は「立地」のよさでも評価されているが、今後国内200店舗の閉鎖が計画されている。背景には、楽天トラベルに代表されるネット企業の参入による旅行商品の販売革命がある。国内宿泊市場をネットに奪われた結果、従来型の店舗営業の役割が問い直されているのだ。特に地方店舗の撤退が加速しそうなのが気がかりだ。
同社はネット販売での商品数を現在の2倍の約30万種に増やすなど、ネット企業への対抗策も打ち出している。だが、リアル店舗がネットに食われる構図は変わらない。リアル店舗とネットの相乗効果を販促にどこまで活かせるかが課題である。
また、国内では盤石のJTBブランドも、海外では無名だ。日本で培ったブランド力をどこまで浸透させることができるかも問われている。