高齢者も参加する「こども食堂」という居場所
妻に先立たれた86歳男性がいる。
一人暮らしだから自分で料理をする。ちゃんと自己規律ができている。「生きていても、人に迷惑ばっかしじゃいけん」と語るその男性が、他方で「テレビを見ても、食べても、何しても、ひとりはいけません」とも語る。
その男性が地域の人たちと食卓を囲む。コロナ禍ゆえの黙食。誰ともしゃべらず食べるのだったら自宅と変わらないのかと思いきや、「たくさんの方でな、顔を見ながらな、言葉ではいえんけど、楽しいです。最高です」と語る。
やはり、一人で食べるのと、誰かと一緒に食べるというのは、ぜんぜん違うらしい(※1)。
この男性が地域の人たちと会食していたのが「河原町ふれあい食堂」という「こども食堂」だ。「地域食堂」ともいう。
こども食堂は一般に「こども専用食堂」「食べられない子のための食堂」と思われているので、高齢者の参加を意外に感じる人もいるかもしれない。だから先の番組も「高齢者も参加する 不思議なこども食堂」というコピーを使用していた。
しかし、実態はイメージ(先入観)とは異なる。筆者も参加した調査(※2)によれば、高齢者が参加するこども食堂は62.7%。過半数を占めている。高齢者が参加するこども食堂は実は、まったく「不思議」ではない。
※1:NHKラウンドちゅうごく「やっぱり一緒に食べたいね~コロナ禍のこども食堂」(2021年4月16日放送)より
※2:令和2年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働科学特別研究事業)総括研究報告書「新型コロナウイルス感染症流行下における子ども食堂の運営実態の把握とその効果の検証のための研究」
誰もが来ていい公園のような場所
そもそも78.4%のこども食堂には参加条件がない。
ほとんどのこども食堂は、0歳から100歳まで、健常者も障害者も、日本人も外国籍も貧乏人もお金持ちも、誰が来てもよいことになっている。
それゆえ筆者は、こども食堂を「公園のような場所」と形容してきた。公園の入口では、年齢や属性、所得を尋ねられることはない。実際、こども食堂の運営者は、「地域みんなが気軽に立ち寄れる場になりたい」「みんなの憩いの場にしたい」「0歳から100歳までがごちゃまぜに交わる場にしたい」と、自分たちの目指す場のイメージを公園と重なるような言葉で語るところが多い。
そのため、高齢者と子どもの関わりが生まれ、「高齢者の健康づくり」という効用を生み出している。
筆者はあるこども食堂で、子どもが高齢者に卓球相手をせがんでいる光景を見たことがある。周囲の人たちの雰囲気から、それが「いつものこと」らしいと伝わってきた。その高齢者は「しょうがねえな」と言いながら、うれしそうな顔をしていた。
筆者はその高齢者に孫がいるのか、孫がいるとして同居しているのか、知らない。でも、孫がいようがいまいが、同居していようがいまいが、その高齢者にこのような地域の子どもとのつながりがあることは、幸せなことだと思う。
そして私がこの高齢者の遠くに暮らす息子なら、この子に、この場に、感謝したくなるだろうと思った。