「ロシアを孤立させる」戦略はうまくいってるのか

そして見落としてはいけないことは、ロシアは意外と孤立していないということです。西側諸国は、厳しい経済制裁でロシアを締め上げ、音を上げさせようとしていますが、地政学的な変動が起きているのです。

ロシアが国際社会から孤立しているという見方で固まっていると、この戦争が終わったとき、思わぬネットワークが出来上がっている世界を目の当たりにするかもしれません。

ロシアのプーチン大統領は4月12日、訪問先の極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で、侵攻を開始して以来初となる記者会見を行い、「ロシアは世界から孤立するつもりもないし、ロシアを孤立させることも不可能だ」(4月13日・毎日新聞)と話しました。これはけして、ただの強がりではありません。

国連総会で、ロシアのウクライナからの即時撤退を求める決議が3月2日に行われ、193カ国中141カ国が賛成。ロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、エリトリアの5カ国だけが反対し、中国やインドなど35カ国が棄権しました。人権理事会におけるロシアの理事国資格を停止させる4月7日の決議では、賛成が93カ国に減りました。中国など24カ国が反対し、58カ国が棄権に回ったのです。

自由と民主主義を掲げる陣営は、この数がもつ意味を深く考えていません。4月7日の決議で反対に回った国は、中国、北朝鮮、イラン、キューバ、シリアなど、一昔前の言葉を用いるならば、いわゆる“ならず者国家連合”ですが、中立的な立場を取ろうとする国を加えると、世界の約半分を占めたのです。さらに国家の人口で言うならば、アメリカの立場に賛成する人々のほうが少ないのです。

4月7日、国連総会はウクライナに侵攻したロシアについて、人権理事会の理事国としての資格停止を求める決議を行った。ロシアの孤立を狙ったが、賛成は93カ国、反対24カ国、棄権58カ国で温度差が目立った。地図は編集部作成。

ちなみに、1933年(昭和8)に日本が国際連盟を脱退したとき、リットン調査団の報告書採択に反対したのは日本だけ。棄権がシャム(タイ)だけでした。

アメリカの「ロシアを支援したら制裁を科す」発言に中国が反発

ロシアに対するどちらの決議も、中東、東南アジア、アフリカ、中南米で棄権が目立ちました。西側陣営の影響力が小さくなっていることを感じさせます。

たとえば、3月2日の決議で棄権したウガンダのムセベニ大統領は、日本経済新聞の取材に応じて〈ウクライナを巡る日米欧とロシアの対立について、「アフリカは距離を置く」と表明した。〉(3月17日)。タイのプラユット首相も、侵攻が始まって間もない時期から「中立を保つ」と発言しています。

アフリカや東南アジアの国々は、経済的な結びつきから中国に好意的で、ロシアに対しては中立です。ロシアは中東でも、アメリカ最大の同盟国であるイスラエルのユダヤ人社会に強いネットワークを維持しています。

ロシアが独自に提出したウクライナの人権状況に関する決議案について、国連の安全保障理事会が採択を行ったのは3月23日です。理事国15カ国中、13カ国は棄権しましたが、中国だけがロシアと共に賛成に回りました。これは、バイデン大統領が同月18日に習近平国家主席と電話会談をした際、「中国がロシアを支援した場合には制裁を科す」と脅したことが、裏目に出た形です。中国はアメリカに反発したのです。

このように、ロシアを封じ込めてプーチン政権を崩壊に追い込もうというもくろみは、狙い通り進んでいません。停戦を実現させるには、アメリカが軍を介入させてロシアを排除するか、プーチン大統領の納得できる範囲で折り合いをつけて合意するか。このどちらかしかないでしょう。