辞任要求の中、突然のサプライズ訪問

英警察当局は4月12日、ロックダウン中に官邸をはじめとする政府機関でパーティーが複数回開催されていた件をめぐり、ジョンソン首相およびリシ・スナク財務相に罰金を科すと明らかにした。英国で首相が在任中に違法行為で罰を受けるのは史上初めてとなる。

罰金対象となった行為は、大きく報道されたクリスマスパーティーについてではなく、同年6月のもっとも厳しいロックダウン規制が敷かれていた最中に行われた首相の誕生会だった。首相夫人のキャリー氏も同じく罰金を科されている。

3人はこうした事実についていずれも謝罪してはいるものの、首相も財務相も共に「辞任せよ」との声には応じず、あくまで職務をまっとうする考えを述べた。これに対し、野党は強く批判。自治政府が存在するスコットランドとウェールズの首脳はいずれも首相と財務相に対して辞任を要求した。

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ここまで不祥事で追い詰められると、たとえ首相であっても普段ならとっくに更迭というレベルに達している。ところが、コロナ禍中に日本も訪問したエリザベス・トラス国際貿易相(外相)をはじめ首相に近い閣僚らの間では、「辞めるのではなく、職務をまっとうせよ」という声が不思議と強い。英国が直面するさまざまな問題解決に向けた現状打破に全力をもって邁進しろ、とむしろ強いエールを送っていた。

そんな時だった。ジョンソン首相が突然ウクライナの首都・キーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談したのだ。

身をもって「ロシア軍の劣勢」を裏付ける周到ぶり

電撃訪問は、「パーティーゲート事件」で警察当局から罰を受けるわずか3日前の4月9日に行われた。これは事前にどこからもまったく報道されず、駐ロンドンウクライナ大使館が同日夜、キーウ滞在中の首相が映った写真をツイートしたことで発覚した。

これまでキーウには、ポーランド、スロベニア、チェコの3首相が3月15日、そろって訪問したのを皮切りに、4月8日にはフォンデアライエン欧州委員会委員長とEU外交のトップを担うボレル外務・安全保障政策上級代表が共に訪問している。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻開始以来、主要7カ国(G7)の首脳がキーウを訪れるのはジョンソン首相が初めてだった。

英官邸は「ウクライナへの連帯を表明した」と説明しているが、これには布石がある。首相訪問前に、英国防省はキーウ周辺からのロシア軍完全撤退を確認したと公表していた。キーウ陥落を目指したロシアのもくろみが不調に終わったことを、西側社会の軍事強国として英国が先駆けて明確にした点においても、ジョンソン首相自らによるキーウ訪問は意義深いものだ。

英高級紙ガーディアンは「外交的な成果が乏しいジョンソン氏のキーウ訪問」と冷ややかながらも、首相とゼレンスキー大統領2人にとっては象徴的な勝利だったと伝えている。これはなぜか。