ファンを細分化してビッグデータを分析する

【阿久津】さて、話を少し戻しますが、エンターテインメントビジネスは、ブランドビジネスのなかでも特に特徴的なのでファンビジネスといった呼び方もされます。米国などのプロスポーツ業界では、ファンビジネスを科学的なマーケティング手法を駆使して実践している企業が多いですが、日本のプロスポーツ業界では、そうした企業は少数派のような気がします。

【小山】おっしゃる通りだと思います。先ほど、生涯価値という言葉がありましたが、プロスポーツは一度ファンになったらずっとファンでいてくれる可能性が高いジャンルだと思いますが、一方でJリーグ創設時のように一種のブームのような状態になると冷めるのも早いといったことも起こり得ますよね。

小山淳、阿久津聡ほか『弱くても稼げます』(光文社新書)

【阿久津】そこで有効になると思われるのが、ファンを階層に分けてセグメント化して分析するアプローチです。ビッグマッチだけ見る人からアウェーまで応援に行く熱心なサポーターまで、階層に分けて考える必要があります。

現在はものすごく細かいところまでデータを取れるようになったので、こうしたセグメント別分析もかなり詳細にできるようになりました。そうした詳細なデータを使って、ファン獲得コストや生涯価値、離脱率などを算出し、それらを分析して戦略を考えるとよいでしょう。

【小山】ビッグデータが手に入るようになったおかげで分析しなくてはいけないことがすごく増えてきたということですね。

【阿久津】そうとも言えますね(笑)。でも、ビッグデータを解析する際には、マーケティングの洞察やセンスも重要になります。

ベイスターズの競合は他球団ではなく飲食店

【阿久津】例えば、ベイスターズの競合の定義などは秀逸でした。データを分析していくと平日の興行で一番収益にインパクトがあるのが、30代、40代の男性ビジネスマンでした。だとすれば、就業後の時間をどう過ごすか、その選択肢として球場を選んでもらうにはどうすればよいかを考えたわけです。

その結果、球場にビアガーデンを作って地元のビールを提供するなどの施策を打っていったのですが、それはライバル球団が競合なのではなく、お酒を提供する飲食店こそが競合だという洞察に基づくものでした。

写真=iStock.com/Nikada
※写真はイメージです

球場をTOB(株式公開買付)にかけて買収したのも大きく、それによって座席なども顧客のニーズに合わせたものへ改変できるようになりました。大相撲のマス席のようにボックス席を作ってそこで飲み会ができるように改修するなど、お客様に最高のベネフィットを提供するために努力したわけです。ちなみに、週末での競合はテーマパークと考えていたそうで、試合後に光のショーを展開するなど家族全員が楽しめるイベントの実施で対抗していたようです。

このようにデータ分析をマーケティングの洞察と合わせて上手に使うと、効果のある様々な打ち手を見出すことが可能になります。ですがスポーツビジネスの現場では、このような分析を何もしていないところがまだ多い。それに対して、しっかり分析しているところは圧倒的に優位に立てると思いますよ。

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