一度ファンになると一生応援してくれる「生涯価値」

【小山】プロ野球のお話が出たので、ちょっと先生にブランディングとの関連をお聞きしたい事例があります。我々のグループのアカデミー&スクール事業を行っている会社は、あるプロ野球球団のスクール事業を請け負っています。元々OB選手などが指導者としてやっていた時代は200人程度の規模だったようですが、スクール運営のノウハウがある我々が事業を請け負ったところ、生徒が急増し現在は約3000人が通っています。

生徒たちはファンクラブにも入会してくれ、その家族もまた子どもたちが通っているということで、その球団のファンになってくれまして、結果的にこれは約3000世帯、1万人ぐらいのファンを獲得した効果があるのではないかと思っています。

実際、コロナ前はスクールの生徒数の増加に合わせて右肩上がりで球団の観客動員数も伸びていました。こういった事例にみられるファンの増加もブランディングの成果の一つと捉えてしまってよいのでしょうか。

【阿久津】それはむしろ典型的なブランディングと言ってよい事例かと思います。また、ファンの持つ影響力を活用したブランディングの実践例としても興味深いですね。ファンビジネスにおいて、コアなファンというのはとりわけ重要です。彼らは口コミでチームのよさを広げてくれるし、トラブルが起こってもサポートする側に回ってくれます。

【小山】なるほど。それと、生徒がいつか成長して子どもを持った際には、その子どももまた応援してくれる可能性も高いのではないかと思っています。

【阿久津】そうですね。ファンビジネスでは、一度ファンになると、ずっと応援してくれる人が多いと聞きます。ある人が顧客になってから生涯にわたってもたらしてくれる収益の合計を、会社にとってのその顧客が持つ「生涯価値」といいますが、ファンビジネスではこの値が比較的大きいということになります。

コストと生涯価値の獲得とのバランスが重要

【阿久津】マーケティングが進んでいる業界では、ほとんどの企業が顧客の生涯価値を意識しています。ファン一人あたりの獲得コストがどの程度で、それに対して生涯価値はいくらなのか。そのバランスを常に見ながら獲得コストをどの程度かけるべきかを考えます。

そうしないと、お金をすごくかけてプロモーションしたのに、全然リターンがなかったり、逆にちょっとプロモーションすれば高い効果が得られるのに出し渋ってしまったりといった問題が起こってしまう。現代マーケティングにおいては、不可欠の概念です。

【小山】この場合、効果はどうやって計測するのですか?

【阿久津】最近はビッグデータ解析が主流ですね。ベイスターズなども、相当早い時期からドコモなどのデータを使って分析をしているようです。球団やスポーツのスクールなどは、もしスクール生が子どもの頃からデータをずっと蓄積することができるなら、すごく貴重なビッグデータを手にすることになりますね。

そうしたデータを活用すれば、コロナになったら人々の行動がどう変わるのかとか、どういう人々がどんな影響を受けているのかといったさまざまな分析が可能になり、それに対して必要な対策をとることもできるようになるでしょうね。