ロシア経済の主軸は化石燃料セクターだ。ロシアの輸出品目を見ると、資源・エネルギー関係で輸出額の半分を占めている。お得意さまは欧州だ。また原油にいたっては半分弱の輸出は欧州向けに出されている。したがって、ロシア経済を欧州が支えているといってもあながち間違いではない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は3月17日、ドイツ連邦議会での演説でドイツ政府の対応を一部強い口調で非難した。それはドイツがロシアから天然ガスを直接買い受けるために敷設したパイプライン、ノルドストリーム2を念頭に置いたものだ。要は、ドイツがロシアに資源・エネルギーを得る対価として支払った資金が、ウクライナ侵攻にも使われたというロジックだ。
欧州から見てもロシア産の資源・エネルギー依存は高い。天然ガスについては4割、ドイツでは5割以上を占めている。この面では欧州のエネルギー事情をロシアが支えてきたといっても、こちらもあながち間違いではない。
実際のところ、この関係性は最近になって構築されたわけではない。冷戦時代から段階的に構築されてきた。
ロシアはソ連時代の1970年代、シベリアのガス田開発と欧州と接続するパイプラインの開発で主要生産国・輸出国になった。1984年に建設されたウレンゴイ-ウージュホロド・パイプライン、1996年に稼働したベラルーシとポーランドを経由するヤマル・パイプライン、バルト海を通ってドイツと結ぶノルド・ストリームで、ロシアは天然ガスを欧州に供給。トルコ向けのブルー・ストリーム(2003年稼働)、トルコと南東ヨーロッパ向けのトルコ・ストリーム(2020年稼働)もある。
今回のウクライナ侵攻は、北大西洋条約機構(NATO)の東側拡大がロシアを刺激したという見方が安全保障の専門家から指摘されることがある。だが、資源・エネルギー分野で言えば、NATO対ワルシャワ条約機構という明確な構図が存在した冷戦期にも欧州はソ連に依存してきたのだ。安全保障は対立するものの経済面では関係性を構築することでバランスを取ってきたという部分もあるのだろう。
冷戦構図の終焉とともに、今日に至るまで、世界はグローバリズムを標榜し、国際協調、相互依存によって「平和」と経済的な安定を実現させてきた。ここ数年、国際協調主義から自国第一主義への転換が見られるようになりバランスは揺らいでいる。
そのトリガーこそ、欧州主導の急進的な脱炭素戦略だった。
欧州の焦りが生み出した「ロシア頼みの脱炭素戦略」
気候変動対策をはじめ、欧州はこれまで脱炭素の国際的な旗振り役を担ってきた。各国で事情は異なるが、再エネ比率の拡大に努め、脱炭素転換を世界に先んじて実行してきた。