格下げによって財政が悪化するメカニズムとは
さらにS&Pは翌週の週明け1月16日に欧州金融安定基金(EFSF)の債券の格付けをAAAから一段階下げて、AA+とした。EFSF債券は、ギリシャ財政危機および他の国への波及に備えて、金融支援を行うための資金を調達するために発行されている。そして、資金調達費用負担を緩和するためにユーロ圏諸国の保証の下で発行されている。
EFSF設立に際して、AAAの格付けをもったドイツとフランスが主として保証することによって、EFSF債券をドイツ・フランスという保証国のAAAに連動させて、AAAとして格付けされた債券として発行されていた。
S&Pは、自ら前の週の金曜日にフランスとオーストリアをAAAからAA+へ格下げしたことを根拠にして、EFSF債券の格付けを引き下げた。EFSF債券の保証国の信用および保証能力を疑問視して、それらの格下げに連動させたのである。
各国政府の格付けが引き下げられること以上に、ギリシャの財政危機とその波及に対処するためのEFSF債券の格付けが引き下げられたことは、その資金調達費用負担を増大させるだけではなく、そのための資金調達の条件を厳しくさせ、最悪のケースでは資金調達自体が困難になる可能性もある。
このように、S&Pが自ら格付けを引き下げた国によって保証されているEFSF債券を格下げしたことは、自己実現的に悪循環に陥る可能性がある。もしこのS&Pによる格下げによってEFSF債券の消化が困難になると判断されるならば、ユーロ圏諸国の財政危機を救済する資金が不足となり、財政危機に対する対応がそれだけ困難となり、各国の財政危機の発生確率を高めてしまう。
これによってさらにS&Pが各国の国債を格下げすれば、まさしく自己実現的悪循環に陥るであろう。このような悪循環が実際に起こるかどうかは、S&Pの格付けがどれほど市場参加者(投資家や投機家)の行動に影響を及ぼすかに依存する。
格付け機関による格下げが市場参加者の行動に影響を及ぼすか否かは、格付け機関と市場参加者との間の情報の非対称性に依存する。すなわち、どれほど格付け機関が市場参加者の知らない情報を知っているか、格付け機関が情報のうえで優位(情報優位)にある一方、市場参加者が情報のうえで劣位(情報劣位)にあるかに依存して、市場参加者の知らない情報を格付け機関が提供することによって市場参加者の行動に影響を及ぼすであろう。
そうでなければ、すなわち、市場参加者がすでに知っている情報しか格付け機関が提供しないならば、すでに市場参加者がその情報に反応して行動を起こしているはずなので、同じ情報が格付け機関に提供されようとも、市場参加者は追加的な行動は起こさないであろう。
このように、もし格付け機関と市場参加者との間に情報の非対称性が存在するならば、格付け機関の格下げは当該国債のソブリンリスクに影響を及ぼすであろう。一方、ソブリンリスクを示す利回り差やクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)などの市場情報、言い換えれば、公的情報を見て、後追い的に格付け機関が格付けを引き下げた場合には、情報の観点からは理論的には当該国債のソブリンリスクに影響しないであろう。