「福島の生産現場を知らない台湾人は不安だと思う」

20代の出版社に勤める女性は、冒頭の女性とは正反対の意見だった。

「私は大丈夫だと思っていますが、周りの友達はやはり食べたくないと言っています。ちなみに全員民進党支持者です。たぶん、その原因は作っているところを見たことがないから不安なんだと思います」

台湾では、蔡英文総統率いる与党民進党と、親中路線を掲げる野党国民党の二大政党で成り立っている。民進党を支持する人はリベラルな若者が中心で、国民党は保守的な高齢者や、中国と取引している経営者層が多い。そのため、国民党支持者は親中的な傾向が強く、今回の禁輸措置解禁についても否定的な人が多いのだ。

この女性は以前、日本で暮らしていたことがあった。彼女の住んでいた京都のスーパーでは、福島県産の野菜が大量に売れ残っていたという。怖いのは日本人も同じだということだろうか。

彼女は「でも……」と続きを話し始めた。

「私は、福島に行って、農家で、作業しているかたと話をしたり、作物を作っているところを見せてもらったりしました。そこで食べたご飯はとてもおいしかったです。今の時代、本当に安全なものなんて無理だと思います。だから農家のかたが心を込めて作ったものを見たものとして、私は大丈夫だと思って食べることにします」

この女性は、普段、日本の文化を特集する雑誌の編集者をしている日本通である。そんな彼女の周りでも、食べたくないと思っている人がいるのには、やはり放射能というものの恐ろしさ、放射能というものを人間がいかに恐ろしいものだと捉えているかを実感する。

一方で、この女性のように、実際に福島の農作物の現場を知る人であれば、安心して食べることができるのである。

「輸入禁止してきたこれまでが誤りだった」

また、別の40代のウェブデザイナーの女性は次のように語った。

「(輸入解禁になって)よかったと思う。反対している人はほとんど国民党支持者の人たちだよ。台湾がTPPに参加したいなら、福島県産を含む5県の食品輸入は必要なことだと思う。あと科学的にも、それらの食品は、国際基準の安全範囲内だから、そもそも輸入禁止だったのが間違っている。だから私は何の問題もないと思う。安心して食べるつもりだよ」

私には、この女性が一番客観的で冷静な意見を言っているように思えた。ただ、頭でわかっていても体が拒否する場合もあるので、この女性が本当に食べられるのかどうかは、口にしてみないとわからないとも感じた。

と、ここまで3人の女性たちに意見を聞いたが、語られる角度も実に多種多様で賛否両論だった。しかし、頭ごなしに反対! 食べません! という意見が連続して出てこなかったところに、日本という国に非常に好意的である台湾らしさを感じないわけにはいかなかった。