日本人を奮い立たせたヒトラーの演説
「ドイツ国民は日本がこの人道をはづれたアメリカに敢然抗議した最初の国家として日本に對し最上の尊敬の念を捧げざるを得ない」
「われわれと日本が同盟関係をもつていなかつたとしたならばルーズヴェルトとユダヤ人が各國を次々と滅亡して行ったであらう」
ヒトラーは今回の戦争の火付け役は、ヨーロッパの紛争に介入してきた米ルーズベルト大統領だと指摘、「精神錯乱に陥っている」「詐欺と搾取の世界」をつくり上げていると痛烈に批判して、そんな「人類の敵」にはじめて立ち向かった日本を大絶賛しているのだ。
ご存知のように、日本人は外国人に褒められると弱い。ドイツの英雄から「日本スゴイ」と持ち上げられたことで、当時の日本は「今こそ同盟国との連帯強化だ」「聖戦完遂」の大合唱がおこった。そして、大人から子どもまで、人類の敵・ルーズベルトを叩きのめす「正義」にのぼせ上がった。
「日本人は軍に脅されて嫌々戦争をしました」と信じて疑わない人たちにはなかなか受け入れ難い現実だが、当時の日本人はオリンピックで日本人が金メダルを取るのと同じような歓喜と熱狂の中で、多くの国民が「正義の戦い」にのめり込んでいたのである。
遠い国のリーダーの「日本スゴイ」が持つ力
ちなみに、この後も日本人の「ヒトラー演説人気」は衰えることはなかったのだが、そこで大きなポイントになっているのが、「やっぱりヒトラー総統とは気が合うなあ」という親近感である。1942年10月2日の「読売新聞」の社説がわかりやすい。
「ヒトラー総統のこの演説は、何ものを以てしても動かすことをえない勝利への絶対的確信とかゝる確信を抱いて邁進するヒトラー総統の背後に随うドイツ国民の旺盛なる愛国心と団結力のいかに強固にして偉大なるものであるかについて、特にわれわれに深い印象を與へるのである」
当時、日本人がヒトラーとドイツ人が好きだったのは自分たちと同じく「愛国者」ということが大きいのだ。実際、ヒトラーが戦地に赴いた際には、日本では「皇国先人の烈々の愛国魂」(読売新聞1943年4月9日)をおさめた「愛国百人一首」を制作して、ドイツ大使経由で贈り物をしている。
さて、このように、遠い国のリーダーの「日本スゴイ」にうっとり聞き惚れて、その愛国心に心を震わせて戦意を高めた80年前の日本人の姿を見て、何かと重ならないか。そう、ゼレンスキー大統領の演説に対して、「日本のことをよくわかっている」「感動をした」と称賛をした今の我々の姿と丸かぶりなのだ。