熊本県産を食べた人はほとんどいなかったということだ。“将軍様”のハマグリが有明海に埋められて国産として賞味されていたことがあるが、その同じ土地で同じことが起きて、約14年も在職している県知事が驚いてみせるのは、もはや喜劇だ。おコメの南魚沼産コシヒカリが、現地生産量の30倍以上が全国で流通しているのよりひどい。

中国や韓国で生まれ育ったアサリでも、熊本県内で“畜養”した期間のほうが長ければ「熊本県産」と表示できる。アサリに“長期の蓄養”がなかったと判断されたから偽装なのだ。

ウナギでいえば、19年に新潟市のスーパーが中国産に「鹿児島県産」というシールを貼って販売した。21年も岐阜県の業者が中国産のウナギを愛知県産と偽装表示していた。たとえウナギの名産地から出荷されても、熊本県産アサリのように、国内の養鰻場にいたのが短期間なら偽装になるわけだ。

魚は移動するし、誰が獲っても品質は変わらない。しかし、外国から格安で買ったものを「○○産」のブランドで高く売るのはイカサマだ。

食品の偽装表示が後を絶たないのは、国産品は安全でおいしいと思い込む“国産信仰”が根深いせいでもある。ワインのボルドー地方、ブルゴーニュ地方のように有名ブランドでない限り、外国産は国産に劣ると考えるのは誤りだ。“国産信仰”があるから、途中でイカサマする連中が出てくる。

消費者も自分の舌を信じて判断

むしろ「オーストラリアのWAGYUは安くてうまい」というように、海外産が有名ブランドになれば、イカサマはなくなる。とはいえ、実は最近国内の意識がだいぶ変わってきていて、オーストラリアの牧草で育った赤肉の牛が今では人気だ。霜降りではないので健康にもいいし、柔らかくておいしい、と偏見なく評価され始めている。

競争力がある世界最適地と食の安全保障条約を結び、安くておいしい農産品がどんどん入ってくれば、いずれ“国産信仰”はなくなるだろう。農水省が過度に国内の生産者に寄りすぎていることも根本的な問題だ。消費者も自分の舌を信じて判断するようになり、うまいものはうまい、とストレートに認めるようになれば、最適地の生産者に適切な報酬が払えるようになるし、価格はぐっと下がるはずだ。

(構成=伊田欣司 写真=時事通信フォト)
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