純粋に大好きな野球と向き合えた3年間

なぜ野村はシダックスでの日々を「あの頃が一番楽しかった」と振り返ったのだろうか。

野村がプロ野球の世界へと飛び込み、必死に努力を重ねたのは「お金」のためだった。

加藤弘士『砂まみれの名将 野村克也の1140日』(新潮社)

勝たなければ給料は上がらない世界だ。情は捨てた。相手のクセを盗み、データを重視することで、成功の確率を1%でも上げるべく研鑽けんさんを重ねた。プロ野球に革命を起こした「ID野球」は勝利のための「武装」であり「よろい」だった。

そんな知将が唯一お金のためではなく、ただ好きな野球を心から楽しみ、魂を燃やした日々が、この3年間だった。

成功や名声をつかむための手段だった野球。それを突き詰めた結果、つまずいた男に、野球の神様が原点でもある「楽しさ」をプレゼントした3年間だったと言えるのではないか。

だからこそ、野村は再生できた。

プロの選手とは目が違うんだ

ひたむきに鍛錬を重ねる社会人野球の選手たちを眺めながら、野村は言った。

「人間、お金が絡まないとこんなに純粋になれるもんなんだな。プロの世界の人間とは、目が違うんだ。本当にいい目をして、俺の話を聞いてくれるんだよ」

あの頃、何とか野村に食らいつき、その教えを吸収しようと奮闘してきた男たちは今、アマチュア球界の各所に根を張り、「ノムラの考え」を若き世代へ伝えている。

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