原発攻撃や民間人の犠牲は当然批判を浴びる
ロシア軍の失敗から容易に学べるのは以下の点だ。ウクライナ侵攻を台湾侵攻に置き換えればこうなる。
① 原発や核施設に攻撃を加えると国際社会からの反発が強い
台湾は「脱原発」へと舵を切り始めているが、6基の原発が稼働している。施設が位置する台湾北部や南部から上陸を試みる場合、施設に損傷を与えない工夫が必要。
② 住宅街を空爆し、その映像が拡散されてしまうと批判を招く
台北、新北、桃園など人口が集中する首都圏や台中、高雄などの都市部攻略の際は誤爆しないこと。同時にSNSの規制も必要。
③ 民間人の避難路を早期に確保しないと国際社会から叩かれる
台湾統一をいくら「ロシアが他国のウクライナに侵攻したのとは訳が違う。台湾は国内問題だ」と言い張っても、民間人に犠牲が出ると批判は高まる。民間人の避難路「人道回廊」の早期設置と徹底は不可欠。
④ 自国の兵士に犠牲者が多いと厭戦気分が高まる
戦闘状態に入れば、台湾側も「中国軍○千人が死傷」とプロパガンダの情報を流す。そうなると国内で厭戦気分が拡がる。台湾メディアを規制し、同時に中国軍の犠牲者を少なくする戦法が不可欠。
事前の情報戦も戦地のリアルには敵わない
ウクライナ侵攻でロシア軍が失敗した部分を見れば、中国が台湾を攻略する際、何に気をつけなければならないかが見えてくる。
それを逆手に取れば、台湾当局、そして台湾を支援する日本やアメリカも対策を講じやすくなる。さらに細かいところまで見てみよう。
⑤ 事前の情報戦に重点を置きすぎた
ロシアは、クリミア併合に踏み切る際、「クリミアの土地は歴史的にロシアの一部」「クリミアの住民はロシアへの帰属を求めている」といった情報を発信し、「クリミアの住民がネオナチ政権によって窮地に立たされている」という先入観を、さまざまなメディアを駆使して国民に刷り込んでいった。
今回も、プーチンは論文で「ロシアとウクライナは一つの民族」と強調し、ウクライナのゼレンスキー政権とナチズムを結びつけ、ウクライナ東部でロシアに編入の意思を持つ人々への集団虐殺(ジェノサイド)が行われていると強調してロシア軍の軍事介入を正当化した。
こうした情報戦は、事前には効果的だが、実際にロシアの侵攻が始まると、東部の都市ハリコフや南部の都市ヘルソンなどで、空爆に怯え、地下壕にこもり、焦土と化した住宅街で泣き叫ぶウクライナの人々のリアルな姿がテレビに映し出され、SNSで拡散された。それがウクライナ人を奮い立たせ、ロシア国内でも反戦や停戦の機運が高めるきっかけになった。