ロシアによるウクライナ侵攻は世界情勢にどんな影響を与えたのか。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「今回のロシア軍の失敗は、台湾統一を目指す中国にとって最高の反面教師になる。中国軍創建100年の節目である2027年までに台湾侵攻が行われると予想する専門家は少なくない」という――。
習近平は「ロシアによるクリミア併合を研究せよ」と指令
「ウクライナ侵攻での戦況、そして国際社会からの経済制裁は、ロシアのプーチン大統領にとっては予想を超えるものだったと思います。それらを見て、台湾統一を目指す中国も現実を受け止めたと思うんですよね」
こう語るのは、元自衛隊統合幕僚長の河野克俊である。
中国は、ウクライナ侵攻でのロシア軍の問題点、ロシアへの経済制裁、そして軍事介入しようとしないアメリカの動きなどを相当研究していると筆者も見る。
中国によるロシアの戦術研究はクリミア併合までさかのぼる。中国の習近平指導部は2016年春、複数の政府系シンクタンクなどに対して「ロシアによるクリミア併合を研究せよ」という内部指令を出した。
2016年春といえば、台湾総統選挙で蔡英文が勝利し、1期目の施政を本格化させた頃である。ここでもロシアをヒントに台湾を手に入れようとする野望が垣間見える。
ロシアが大勝利したクリミア併合とは様変わり
ロシアがウクライナ南部クリミア半島の併合に動いたのは2014年2月。このときロシアは、ウクライナで起きた政変を機に、情報戦やサイバー攻撃を駆使してクリミアの親ロシア派住民を煽り、混乱に乗じて一気に併合している。
アメリカやEUは、遅ればせながらロシアに対し経済制裁を科したが、「個人や団体への査証制限や資産凍結」「主要銀行との取引停止」といった制裁は、ロシアにとって痛くも痒くもない制裁だったろう。
習近平はクリミア併合という成功例を見て、「中国が台湾を獲った際に受ける経済制裁もこの程度なら、十分乗り切れる」と、力による台湾統一に光明を見いだした気持ちになったに相違ない。
ただ、今回はかなり状況が異なる。台湾を統一するにはウクライナ侵攻の失敗例から学ぶ必要があるのだ。