ロシア、ウクライナ両国で高まる国民意識
ロシア、ウクライナ両国は、ソ連崩壊後の厳しい経済衰退や社会混乱の苦難を経て、徐々に経済が回復し、厚生状態が改善され平均寿命も回復し、ソ連時代を上回るようになってきていた。
ソ連の崩壊でそれぞれ別々の国となったロシアとウクライナは、もともと独立国だったポーランドなどとは異なり、当初、ロシア人としての誇り、あるいはウクライナ人としての誇りを抱きにくい状態だった(図表6参照)。
しかし、その後の経済の回復、社会の改善で、国民としての誇りも醸成されてきていたところで、今回のロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻がはじまった。プーチン・ロシア大統領は、ロシア人の国民意識、そしてナショナリズム感情の高まりを受けて、EUへの対抗意識を強め、片やEUへと傾斜する兄弟国ウクライナへの侵攻に踏み切ったのである。
ロシアはプーチン大統領という権威主義的な指導者の下で、大国としての過去の栄光を思い返す形で国民意識を高めてきた。このため、EUへの対抗意識が強まっている。
一方、ウクライナは、親欧米派と親露派の指導者が相次ぎ登場し、それにともなう政争が絶えない中で、国民としての意識が高まり、政治への失望感も深くなっていた。コメディアン出身の現大統領が選ばれたのもそのためであろう。このため、国民性や世界観の上では決して欧米化しておらず、むしろロシアとの共通性が大きいにもかかわらず、政治不信からの脱出先としてEUへの期待が高まる結果となっていた(冒頭に掲げた図表1を参照)。
そうした中で起こった今回の軍事侵攻は、骨肉相食むとでも表現すべき、まことに悲劇的な状況と言わざるをえない。こうなることが分かっていれば、ロシアの野心を発動させないためにもっとはやくウクライナのほうから自主的に、EU・NATOにもロシアにも属さないという中立国宣言を行わなかったのかと悔やまれる。
大義を欠いた軍事侵攻とその惨禍の責任はもちろんプーチン大統領がもっとも重いが、欧州の指導層のほうにも、まるで火遊びのようにウクライナをEUに招き寄せるポーズを示し、ウクライナを焚き付けた責任は免れないだろう。
AERA.dotの取材によると、父ウクライナ人、母ロシア人のロシア人女性(38)は、プーチン大統領がウクライナ侵攻に踏み切った理由を、彼女なりに解釈して、こう表現したという。「アメリカやヨーロッパが、お金をウクライナの玄関にわざといっぱい置いて、ウクライナとロシアの兄弟の国同士を喧嘩させようとあおっている」(2月27日の記事<パパはウクライナ人、ママはロシア人の女性が語る“戦争”のリアル 「ケンカを煽り立たのは西側」>)。
案外これが真実に近いという気がしている。