戦争を始める決定権は「大国」側にある

もっとも、こうしたプーチンの言い分は、1941年12月に大日本帝国が唱えた「わが国はABCD(米英中蘭)包囲網で圧迫を受けてやむなく自衛戦争を始めた」という言い分にも通じるもので、現在の国際社会ではほとんど理解を得られていません。

とはいえ、外交交渉でロシア側に戦争回避を決断させるためには、アメリカやNATO主要国の政府が「ロシア側からは現状がこう見えている」という観点にも一定の注意を払う必要があるように思います。

現在のウクライナ危機について、日本のメディアはロシアやアメリカなどの「大国」の動向に重点を置いて報じていますが、『第二次世界大戦秘史』で提示した「大国と周辺国」という図式で見れば、少し違った角度から問題を理解できるかもしれません。

第二次大戦当時と同様、現在の国際社会においても、「大国と周辺国」が対立した場合に戦争を始めるか否かの決定権を握るのは、事実上「大国」側です。ウクライナ政府は、領土保全などの原則を維持しつつ、戦争になった場合の人的・物理的損失を想定し、それが大きいと予測される場合には、戦争回避のための譲歩を強いられる立場にあります。

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ウクライナから見ればロシアの主張はただの身勝手

米ロという二つの「大国」の狭間に位置する「周辺国」ウクライナは、2014年2月に親ロシア派のヤヌコーヴィチ政権が倒れて親欧米の方向に舵を切ったあと、ロシアの軍事的脅威から自国を守るための対抗策として、NATO加盟を望む姿勢をとってきました。

しかし、もしそれが実現すれば、ロシアの首都モスクワからさほど遠くない(最短距離で450キロほど)ウクライナ領内に米軍のミサイルや空軍基地が置かれる可能性があるため、ロシア側から見れば「自国の安全を脅かす軍事的脅威」として、ウクライナのNATO加盟を実力で阻止する動機が発生します。

この「動機」とは、ウクライナから見れば「大国の身勝手」に他ならず、独立国であるウクライナの主権侵害でもあります。しかしロシアは、2014年にヤヌコーヴィチ政権が倒れたあと、黒海の重要な軍港セヴァストポリのあるクリミア半島を電撃的な政治的・軍事的工作でウクライナから「奪取」して自国に併合した上、ウクライナ東部に親ロシア派の支配地域を作って小規模な紛争状態を作り出しています。