米ロの対立も絡み合い、解決が難しくなっている

こうしたロシアによる一連の工作は、ウクライナを「平和な国」でなく「紛争の当事国」という状態にすることで、同国がNATOに加盟できないように仕向けているとも解釈できます。

山崎雅弘『第二次世界大戦秘史』(朝日新書)
山崎雅弘『第二次世界大戦秘史』(朝日新書)

このように、ロシアとの戦争回避を意図したウクライナの「NATO加盟構想」が、逆にロシアとの戦争を引き寄せる効果を生み出しているのは、皮肉な展開だと言わざるを得ません。そして、仮にロシア軍のウクライナへの軍事侵攻が始まった場合、NATO加盟国でないウクライナを救うために、米軍やNATO軍が直接介入する可能性は、現時点では小さいと見られます。

現在のウクライナ危機は、「大国」ロシアと「周辺国」ウクライナの局地的な対立であるのと同時に、「大国」ロシアと「大国」アメリカの戦略的な対立でもあるという二面性を有しています。この対立の二重構造が、危機の解決を難しくしていると言えます。

特定の当事国の「正義」は決して万能ではない

戦争や紛争の発生を事前に回避するためには、それを引き起こす「力学」と「構造」を関係各国が理解し、軍事衝突を引き起こす「力点」と「作用点」を交渉で制御する必要があります。そこでは、特定の当事国から見た「善悪」や「正義」の概念は万能ではなく、それらの概念への過剰な固執は、逆に戦争や紛争の回避を妨げたり、勃発してしまった戦争や紛争の早期収束を阻む障害になることがあります。

そして、ロシア側にいかなる「内在的論理」があろうとも、大勢の人を死に至らしめるウクライナへの軍事侵攻を道義的に正当化する「免責」の理由にはなり得ません。

現在のウクライナ危機が、大勢の市民、とりわけ子どもを巻き込んで犠牲にするような軍事衝突へと発展することのないよう、外交交渉による解決が図られることを祈ります。

【追記】上の原稿は、2022年2月23日に執筆し、編集部に送信したものですが、その翌日の2月24日、ロシア軍はウクライナの首都キエフ近郊を含む多数のウクライナ軍基地への攻撃を行い、またウクライナ東部地域への軍事侵攻を開始しました。

残念ながら、外交交渉による戦争の回避は失敗に終わりましたが、引き続き、外交交渉による戦争拡大の阻止と早期収束を祈り続けます。

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