残業することは「気の毒」という考え

先ほどイギリスの従業員は、自分の担当業務の範囲内で仕事をこなしていれば全てOKと書いた。反対に言えば、それ以上のことをさせられることを嫌う傾向にあり、上司もさせたりはしない。

残業の有無にかかわらず、決められている以上の過剰な労働量が発生してしまっている場合は、上司に伝えれば会社として解決しようとしてくれる。そんな企業構造がイギリスにはある。それが会社としての義務だからだ。ただし一部の会計事務所などは季節によっては過剰な残業が発生するようだが、会社としては雇用法の順守という側面から労働時間の管理は非常に重要なので、余裕のある時期に休暇を取ってもらうなどの調整がなされているはずだ。

筆者は複数の大手英系編集プロダクションに、フリーランスの日本語編集者として出入りしていたことがあるが、驚いたことに雑誌の編集部でさえ夕方6時以降、オフィスに人が残っていることはまれだ。だいたい9時くらいに出社し、遅くても午後5時半くらいには人がいなくなってしまう。その労働スタイルが可能な企業・プロジェクト構造があり、社会構造があるということで、ブラック企業が存在する余地がない社会であるとも言える。

残業することは「気の毒」という考えがあり、「仕事の回し方がまずい」と見られがちなので、できるだけ残業しないように規定時間内で終わらせる文化も根付いていると思う。

筆者撮影

「チームワーク」の日本、「個人プレー」のイギリス

筆者の周りにはこちらに拠点をおく日本企業に勤務する友人(イギリス人、日本人の両方)が複数いる。彼らに話を聞いたところをいくつか例として挙げたい。

現地で採用されている友人たちが口をそろえて言うには、日英の働き方の大きな違いは、「チームワーク」か「個人個人プレー」か、だと言う。

日本人はチームとして振る舞う傾向にあり、部下が上司から何か意見やアドバイスを受けると、割と素直にきくことができるようだ。プロジェクトはチームで和となって取り組んでいるという姿勢。

実はここに日本特有の「ウチとソト」の構造も浮かび上がる。会社内はウチ、クライアントはあくまでソト。ソトであるクライアント側がプロジェクトの進行について心配したりしないように、内側でガッチリと固めて当たっていく。互いに細やかに目を配り、チーム全体が良くなるようにする組織構造だと言える。