なぜ日本の大企業は生産性が低いのか。株式会社ZENTech取締役・慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科研究員の石井遼介さんは「心理的安全性がキーワードになる。たとえば『報告しても怒られる、報告しなくても怒られる』という地獄のような職場では、生産性が高くなるわけがない」という――。
※本稿は、石井遼介『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。
「心理的安全性の高い職場=ヌルい職場」という誤解
「心理的安全性」という言葉は、字面や表面だけを捉えると誤解を生みがちです。心理的安全なチームというのは、外交的であることでも、アットホームな職場のことでも、単に結束したチームのことでも、すぐに妥協する「ヌルい」職場のことでもありません。
例えば、「結束したチーム」はスポーツの文脈で良く語られ、目標に向かって一致団結する姿がチームの理想として認識されています。
しかし裏を返せば、「結束したチーム」は実のところ、異論を唱えることが難しいチームともいえます。心理的に安全なチームはむしろ、チームメンバー大勢の意見が一致しているように見えるときでさえ、「それは違うと思います」と容易に反対意見が言えるチームのことなのです。
「心理的安全性」の誤解の最たるものが「ヌルい職場」といったものではないでしょうか。つまり、人間関係は和気あいあいとしているが、締切も守らず、ストレッチした仕事もせず、コンフォートゾーンの中にいる、といった職場です。
この誤解は「安全」という言葉を日常的な意味でそのまま捉え、「何もしなくても安全」「努力しなくても安全」と解してしまったことに起因します。
しかし、心理的安全性はチームのためや成果のために必要なことを、発言したり、試してみたり、挑戦してみたりしても、安全である(罰を与えられたりしない)ということなのです。
実は、この「ヌルい職場」という誤解を解き、心理的安全性を機能させる上で重要なのが「仕事の基準」(スタンダード)という考え方です。まずこの仕事の基準について解説した上で、「基準」と「心理的安全性」の関わりについて見ていきたいと思います。