履歴書に年齢も性別も書く必要がない

このようにイギリスでは「働きつつも有給を最大限に利用し、ホリデーをとって家族や友人たちとメリハリをつけて人生を楽しむ」文化が根付いている。

企業でも経営者から末端で働く人々まで「ホリデーのない人生なんて」という似通ったメンタリティを共有しているため、有給の消化は推奨され、従業員たちも比較的守られた環境の中で仕事をしている。

企業文化の違いで言えば、イギリスの雇用法では従業員は採用時に合意した担当業務に合ったパフォーマンスが期待されているのみ。仕事環境の中で、いかなる個人特性による差別も許されない点も挙げられる。

例えば応募時の履歴書には年齢、性別、国籍、婚姻やパートナーシップなどについて書く必要もなければ、写真を添付する必要もない。これらに加え、面接その他の場面で人種、障害、宗教、性的志向、妊娠や出産などについて尋ねるのはNG。うっかり聞いてしまうと法律違反で訴えられることもあるので、雇用側は細心の注意を払うべき領域でもある(ゆえに人事スタッフはHRにまつわる法律に通じていなくてはならない)。

シティーのビルが見える路地
筆者撮影

「結婚してますか?」と面接で聞くのはご法度

イギリスに拠点を置く日本企業のオフィスでよくある話がある。日本の本社から来たマネージャークラスの駐在員が、日本の感覚で部下を扱ってしまうことによる失敗だ。

採用時の面接でよくあるのは「結婚してますか?」「子供はいますか?」あるいは「子供を作る予定ですか?」などと私的なことを聞いてしまうこと。これは現在のイギリスでは完全にご法度で、相手によっては訴えられかねない言動。周囲の現地スタッフが慌てふためいて尻拭いをさせられる失態でもある(イギリスへの派遣時に、こういった企業文化にまつわる教育がなされていないのも不思議なのだが……)。

また、採用面接で給料の話が避けられがちなのも、もしかすると日本だけかもしれない。

労働時間に関しては、従業員の家庭環境によっては会社との話し合いで時短や曜日を決めた出社など柔軟な対応が可能。定年制も2011年に法律で撤廃されたので、基本的に年齢を理由に解雇することはできず、本人が希望する限り、そして担当業務を滞りなく遂行できる状態にある限り、働き続けることができる。

企業側からすると、熟練した従業員を年齢を理由に手放さなくてはならないリスクがないので、定年制の廃止は会社にもメリットがある。60代から70代にかけては、いわば円熟の年代。技術職の人々やそれなりに経験を積んできた人たちであれば、企業側としてはぜひとも残ってほしい人材の宝庫なのだ。定年制の撤廃によって会社力が上がる場合もあるのである。