使う原料にも工夫を施した。当時は1年を通してニンジンを収穫していたが、旬の季節でないニンジンはどうしても風味が劣る。実際、春ニンジンと冬ニンジンとでは、冬の方が糖度は高い。そこで現在は、最適な時期のニンジンだけを収穫し、それをすりつぶして低温冷凍で保管している。そのための冷凍技術も開発した。
「本当においしいもの、お客さまの体にいいものを第一に考えています。濃縮還元したりせず、ニンジンの本来の栄養と味を届けるにはどうしたらいいのか。りんごを酸化させずにコクと甘みを出すにはどうしたらいいのか。愚直に突き詰めていった結果がこの商品。お客さまが私たちに求めているのは、そこまでのものだからです」(小川氏)
愚直にシニア女性の声を拾い、商品に反映する仕組み
改善を止めないのは、顧客のニーズを的確に把握しているがゆえの行動だ。“顧客ファースト”を経営改革として取り組んだのが、ハルメク社長の宮澤孝夫氏。ボストン・コンサルティングなどで数々の実績を積んだ後、民事再生法適用を申請したユーリーグ(現ハルメク)の経営再建を任されて2009年にやってきた。
「何よりもまずは顧客を理解しようと訴えました。ただ、社内はなかなか変わらなくて、苦労しました。そこで2014年4月に『生きかた上手研究所』という顧客調査の専門組織を立ち上げました。それでも最初は活用されず、使われたとしても、自分たちに都合の良い調査ばかりでした」(宮澤氏)
そうした状況に対して、宮澤氏はことあるごとに「きちんと顧客のことを知ろう」と社員に言い続けた。例えば、通販では、商品化する前段階から調査して、どういう物事に消費者の関心があるかを把握した。商品に対する満足度を測るだけではなく、事前にニーズを見極めることに努めた。「顧客理解」の浸透に時間はかかったが、今では会社の風土として根付いていると宮澤氏は手応えを感じている。
さらに顧客対応のレベルを上げるため、商品の問題などを即座に発見し、改善につなげる仕組みもある。それが「クレームゼロ会議」だ。
クレームゼロ会議が生み出す好循環
毎週水曜日に開催し、関係部署の課長職以上をはじめ40人ほどが集まる。その名の通り、この場で顧客からのクレームをつぶしているが、それとは別に、商品改良の是非についても話し合っている。
「会議の中では、個別のクレームへの対応策や再発防止について議論しますが、そのほか、商品自体を改良する必要があるかどうかも決めます。例えば、衣服を買ったお客さまから『袖が引っかかり、手が上げにくい』という声があったとします。もし商品を改良しないと判断した場合は、誌面にきちんとデメリット表示をする。一方で、つくり直す判断になることもあります。クレームだけでなく、その前にある顧客の声も吸収するのが、この会議の狙いです」(宮澤氏)