撤退するとしても早めがいい

企業経営においても、リーダーが将来の災いをいかに早いタイミングで見通せるかが重要となる。

事業の競争力が回復不能なレベルまで悪化した段階なら、撤退するしかないことは誰にでもわかる。ただそうなると、かなり大きな痛手を負っている状態なので、仮に大手術をするにしてもそれなりの負荷とコストがかかるし、回復をするにしても時間や費用などの面から多大なリカバリーコストがかかってしまう。

そのため、リーダーが問われているのは、3年前にこうなることを予見し、その時点で撤退を決断できるかだ。

先を読むには、事業の経済合理性を突き詰める力が必要となる。

事業について何らかの兆しが表れ始めた初期段階では、将来についてさまざまな可能性が考えられる。

例えば、ある海外拠点の市場が飽和しつつあったとき、このまま成長が頭打ちになる可能性が高い一方で、極端なことをいえば、競合企業が何がしかの不祥事を起こして戦力が弱体化する、自社製品が大ヒットするなど、いきなり二桁成長に転じる可能性だってゼロではない。未来のことは誰にもわからないので、どんなシナリオも起こり得るのだが、それを言っていたら先を読んで行動することはできない。

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パターンを理解すると先が読めるようになる

よってリーダーは、経済合理性を徹底的に突き詰めて、事業の行く末を冷静に見る必要がある。具体的には、事業の「エンドゲーム」のパターンをできるだけ多く知り、自社の事業特性ならどれに当てはまるかを考えることが有効となる。

エンドゲームとは、事業の市場・競争環境がどのような形で安定化するかを意味する。例えば半導体メモリや液晶パネルのように、資本集約型のグローバルビジネスで、かつ時間の経過とともに製品のコモディティ化が進む事業は、最終的に生き残るのは競争力に勝る世界最大手を含めた数社だけで、他はすべて吸収されるか撤退を余儀なくされる。

つまり「経済合理性を踏まえれば、この事業は最後にこうなる」というパターンを理解することで、早い段階で先を見極めることができるわけだ。

実は上記の話は至極当然の話で、事業経験を積み重ねてきたリーダーにとっては困難ではない。リアル世界においては、合理的な答えを出すことよりむしろ、それらを不確実性の中でリスクをとって決断できる胆力があるかどうかが求められる。いくら先を予見する力があっても、それに基づいて意思決定できるかどうかはまた別だ。

日本企業は総じて意思決定が遅く、それゆえにエレクトロニクスをはじめとする多くの事業が悲惨な目に遭ってきた。