永守重信会長が“スピード”にこだわるワケ
日本電産には“三大精神”なるものがあるが、そのうちの一つが「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」である。これもまた創業時に定め、いまでもそのままに受け継いでいる会社の“基本精神”である。
その筆頭に「すぐやる」を挙げたのには、大きな意味がある。
これはあらゆる製品に共通していえることではあるが、たとえばモータを開発する場合に、あらゆる組み合わせの実験を重ねていく。
仮にその組み合わせが百万通りあったとすれば、たった一つの正解にたどりつくためには、いかに短時間で実験をくり返すかが勝敗を大きく分ける。だからこそスピードが成功への大きな要素になるのだ。
じっさい経営の現場でも、ほかのことがすべてできていても、スピードが遅いだけで大きな赤字を抱えているという例も少なくない。
たとえば、以前M&Aでわが社の傘下に入ったある会社のケースである。
その会社は、高い技術力と優秀な人材、そして、安定したマーケットをもっていた。しかし、経営判断のスピードと、決断から実行するまでの時間が、わが社の三倍ほどかかっていたのである。これ以外には、ほとんど問題点は見つからなかった。
決断の遅い経営者と、スピード感の欠如した社員がいただけで、赤字が百億円まで膨れ上がってしまっていた。まさにスピードで勝敗が決まったのだ。
「なんで5分もかかるんだ」
なぜこの会社はスピード感に欠けていたのか。それは、会社の歴史のなかでつくられていった社風が、そうさせていたのだといえる。
たとえば私が技術部長に電話をかけて「ちょっと確認したいことがあるので、すぐに来てほしい」と告げたとしよう。日本電産の部長なら、一分もしないうちにドタドタと廊下を駆ける足音が聞こえ、部屋のドアがノックされるのが日常の風景だ。
ところが、この会社の場合、受話器を置いてから五分たっても、十分たっても技術部長は現れない。業を煮やして再び電話を入れると「すぐに伺います」とおっとり答えて、それから、五、六分後になって、ようやく顔を出す始末だ。