これが、長い歳月をかけて形成されてきた、この会社の社風なのだ。日本電産の場合は、すぐに飛んでこない幹部社員に対しては、「会社の最高責任者が呼んでいるのに、なんで五分もかかるんだ」と厳しく教育してきた。その結果、醸成されてきた社風があるのだ。

永守重信氏

一つひとつを取り上げれば、それほど大きな問題ではないかもしれない。しかし、数百人の社員をようするような会社の場合、一年間のトータルで考えると、この差は計り知れないものになる。

だったら、その社風を変革すればよいのだ。それほどむずかしいことではない。古参社員が上司から呼ばれたときに走って駆けつける様子を見せれば、誰もが自然と真似るようになる。

経営者やリーダーはこのように人を教育し、社風をつくっていくのだ。これこそがリーダーシップである。

あとから来る急行より、先に出る普通電車に飛び乗る

一歩でも二歩でも先んじて前に進むことは、成功するための必須条件である。以前行った入社試験で、試験会場に早く着いた順に採用するという選考をしたことがある。まさに「先んずれば人を制す」――その心がけこそが、何よりも大切なのである。

これはもちろんライバルとの競争に勝つという意味を含んでいるが、それだけではない。起こりうるリスクを回避するためにも大切なことなのだ。

よく私は「夜二時間遅く仕事をしている人よりも、朝三十分早く会社に来る人を信用する」という話をする。出社時間ぎりぎりに会社に飛び込んでくるようでは、心に余裕をもつことができない。もし不測の事態があったときに、それでは対応できないのである。

京都から大阪へ電車で行くことを想定してほしい。すぐにやってくるのは各駅に停まる普通電車だ。その五分後に急行が到着する。途中駅で急行が普通電車を追い抜くので、大阪へはこの急行のほうが早く着く。

さて、あなたはどちらの電車に乗るだろうか。

おそらく、ほとんどの人は五分後に到着する急行に乗るだろう。どうせ途中駅で追いつくのだから、当然とも思える。しかし、私はあえて、先に来る普通電車に乗る。そして、途中駅で急行に乗り換えるのだ。

わざわざ乗り換えるのなら、五分待って急行に乗ればいいではないか、と思うだろう。しかし、そうではない。そこに不測の事態に備えるという「リスク回避」の観点が入ってこなければならないのだ。

目的地に少しでも近づいておくことが大切

一寸先は闇だ。どんな突発的な事故が起こるかしれない。乗るはずだった急行が時間どおりに来るとはかぎらない。地震で遅れるかもしれない。

定刻どおりに来ても、満員で乗車できないかもしれない。だからこそ、目的地に少しでも近づいておくことが大切なのだ。創業経営者は、たいていこういう発想をするものだ。