「普段の給料では安すぎる」という声も聞いた

それが第5波が収束し、通常の仕事に戻った時、心にぽっかりと穴が空いたような心境になったのかもしれない。コロナを経て、自分の仕事の必要性や意義を改めて認識し、普段の給料では安すぎるという声も聞いた。

「看護師だけでなく医師も足りません」と、會田医師が続ける。

「人手を募集していますが、これまでのどの波よりも急激に感染者が増えすぎて追いつかないんです。増え方の波でいうと、第5波の5倍といってもいい。今日はもう6時間働いていますが、まだここに入院している55人の患者さんを一人も診察していません。昨日もドクターが2人で、1人につき30人の患者さんを診るような状況で、そのカルテの整理がぜんぜん終わっていないんです。そのあおりが翌日にきてしまうというのを繰り返しています。退院調整も手間取ると、一人に1時間弱くらいかかる。このまま終わらないんじゃないかと……」

前述したようにコロナ臨時病棟では180床を確保している。しかし、現状の医師や看護師の人数では60人の入院が限界だという。

撮影=笹井恵里子
コロナ臨時病棟外観

會田医師は月に数回、神奈川県調整本部の業務も担っている。コロナ臨時病棟で働いている時は神奈川県調整本部から新規入院依頼がくるわけだが、その逆パターン、つまり會田医師(神奈川県調整本部)の側から各医療機関にコロナ患者の入院をお願いする役割だ。その業務を担っていると、どの病院も全てのベッドを稼働させるだけのマンパワーが足りていないとひしひしと感じるという。

「誰かが診てくれるだろう」という他人任せな姿勢

「確実にくる第6波のために看護師を確保してくださいと僕たちは県に訴え、ここでも先月末から派遣のナースに研修を行い、いざというときに備える予定でした。しかし思いの外、その波が早く、圧倒的に感染者が増加したため研修を行えませんでした。今となっては、もっと早くから診る人間、医療従事者を確保しておくべきだったと思いますが……。一方でコロナがまだ“自分たちが診る病気じゃない”と思っている医師はたくさんいるはず」(會田医師)

撮影=笹井恵里子
湘南鎌倉総合病院の會田悦久医師。インタビューの様子は筆者のYouTubeチャンネルでも公開している。

コロナ発生から2年経ち、一般の人々はコロナに慣れつつあるが、かえって医療従事者のほうが「自分たちが診る病気」という認識が低いのかもしれない。

実はそのような「自分ごとじゃない」という意識は、コロナ発生より前の救急医療と同じなのだ。特に都会は「誰かが診てくれるだろう」「どこかの病院が受け入れてくれるだろう」という他人任せな姿勢で、“たらいまわし”が日常茶飯事だった。冬は毎年、インフルエンザの患者でERの現場はごったがえしていたが、手が空いている医療機関や医師が手伝おうとする姿勢はなかった。

そのような中でも患者を受け入れようと努力してきた医療機関は、このコロナ禍でも何とか乗り越えようと工夫している。つまり、今逼迫している地域や医療機関は、コロナの前からそうだっただろうと私は言いたい。