買収が株式交換で行われる場合には、買収側のキリン・サントリーの株価あるいは時価総額が統合によって高くできれば、買収に必要な株数は少なくて済む。統合後の企業の財務状態がよくてキャッシュリッチならば、内部資金で将来の買収をまかなえたり、借り入れが容易になるであろう。

統合後の企業が買収される側に回ったときの財務メリットとは、統合後の企業の時価総額が単独でいた場合より大きくなるために、買収する側の必要資金がそれだけ大きくなり、それが敵対的買収への抑制となる、というメリットである。

しかし、企業の発展ということを考えれば、こうした財務的メリットだけでなく、事業統合のメリットの大きな経営統合が本筋であるべきだろう。

キリンとサントリーの記事を読んだ際に、私は10年前に起きたドイツのダイムラーによるアメリカのクライスラーの買収劇を思い出した。2007年4月16日号のこのコラムで、この「世紀の買収」が失敗すべくして失敗したことを分析したエッセイを、私自身が書いている。合併発表時にダイムラーの経営陣はさまざまな経済的メリットをあげたが、そのどれもが大きいメリットとは私には思えなかった。そして結局、事業統合の経済合理性と事前に喧伝されていたことも幻想に終わった。そのうえ、ドイツとアメリカという2つの組織文化の統合も難しかったようだ。

買収や経営統合という「乾坤一擲」の大手段は、グラマラスに見える。それだけに、経営者の目をつい「現場で起きる真実」からそらさせるのかもしれない。しかし、すべては最後には現場で決まる。神は細部に宿る、のである。